クラスター対策(2020年3月の記事)

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WHOと中国の共同報告書(2020年3月1日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

「サンデーLIVE」という番組がパルスオキシメータに触れた(追記:軽症なら自宅療養の方が良い,という文脈で,じゃあ,どういうときに病院を受診したら良いのか? ということから,自覚症状の話を先にして,でもそれではわかりにくいので,何か数字でわかるものはないの? ということで紹介されたのであって,とある医療系tweetが誤解して流したような,それでCOVID-19感染がわかるなどというトンデモではなかったことは付言しておきたい)。岸田さんが随分前にtweetしていたが,テレビでは初めてではなかろうか。あの時点では良かったが,関係ないものまで買い占めが起きている今,テレビで流すのは良いかどうか微妙。ただ,併せてSpO2が91-95%のときの自覚症状の目安として,歩くと息切れすること,90%未満の目安としてじっとしていても息切れすることを挙げていたのと,換気を勧めていたのは良い。トイレットペーパーやコメが売り切れたことに関連して,外出しない方が良いという町の人の声を流していたが,ここは「外出しない」ではなくて「人混みにいかない」であることをコメントして欲しかったところ。昨日の大阪府知事会見とライブハウスの外観を流したのは止めて欲しかった。首相談話にあった15分の検査って,先日産総研が発表したやつだろうが,RT-PCRだったらChain Reactionのために一定時間は要するはずなので,何か違う原理を使うのだろうか。仮にそうだとしても,問題は時間ではなく,検出限界が現状より低いところまでいくかどうかで,検出系よりもサンプリング方法の問題であるような気もするので(体内のどこかに存在するが,鼻腔スワブや咽頭スワブの中に偶々ウイルスが含まれていなかったら,増幅できない),検査上の問題解決にはつながらないだろう。文科省から5000万円の資金をもらって長崎大学熱研を中心とするウイルス学者のグループが取り組んでいるのは,たぶんELISAで血液検査をする簡易検査方法(いわゆるPOCTの1つで,マラリアやデングのRDTとかA型インフルエンザのクイックテストのように,サンプル採取したその場で結果がでるもの)だが,それとも違うのだろうなあ。産総研の発表はスルーしていたが読んでみないと……検索してみたら,ブログで解説している方がいて,その記事によると,RT-PCRという原理は変わらず,Chain Reactionを高速化する技術のようだ。サンプリング方法や輸送方法の新技術はないのだろうか。

テレビでもSNSでも昨日の首相会見で全国一斉休校の根拠が示されなかったのは不満とするコメントが多いが,根拠などないのだから示せるわけがない。台湾のようなクラス単位や学校単位の休校基準の決め方なら合理的だが,それは元々日本の学校保健法でも休校は学校単位で判断されるものとなっているし,2009年のパンデミックインフルエンザ流行の前に定められたH5N1を想定した行動計画でも1例でも患者が出た都道府県という単位であった。今回全国一斉休校とすることで,逆に,感染者が出ている地域でさえ自由登校とか学童保育で引き受けるとかしてしまっては,感染拡大防止のためにはむしろマイナスだろう。

「サンデーモーニング」に出ている上氏,感染研の過去の成り立ちまで持ち出して不信を煽ってどうする。病院に行くことによって感染するリスク,検査を受けに行くことで手すりとかドアノブを介して接触感染するリスクを考えたら,風邪症状はあるが肺炎に至っていない人は,自宅で静養する方が良いのは明らかであろう。サンデーモーニング,再燃の問題について扱っているが,コメントした医師が肛門スワブの検査での陰性を退院基準に入れるべきとする論文に触れないのは残念。さっき見た「サンデーLIVE」の方がずっとマシな情報を伝えていた。

日経新聞は専門家会議メンバーの鼎談を報じてくれているが,ここで押谷先生が語っていることが本当なら,西浦さんが触れていた「最初のミッション」は北海道ではなくて和歌山だったのかもしれない。

堀口逸子先生のtweet。効果的なリスコミ方法を探る試みの一つ。良いことを思いついた方は,是非ご協力頂きたい。

WHOが中国とのジョイントミッションで,COVID-19についての報告書(2020年2月25日)を公開していた。岸田さんがNHKによるこの報告書の紹介記事を紹介してくれていて知った。原文が公開されているのだから,NHKもpdfへのリンクをしておいて欲しいところ。ざっと目を通したが,データから見える傾向は,先日の中国CDCの報告と同様だった(80歳以上の高齢者のCFRは,先日の報告書よりさらに高く20%を超えていたが)。概ね良いまとめだとは思うが,2つ以上の要因の組み合わせによる重症化リスクや致命リスクへの影響評価が分析されていないのと,CFRのバイアスに触れていながらIFRに触れてくれていないのが残念だった。

WHOの個人防護用具の合理的な利用についての中間報告(2020年2月27日)が,日報No.40からリンクされている。既に亀田病院のICUの林先生が一部訳されているとのこと。

London School of Hygiene and Tropical Medicine (LSHTM)が3月23日から始める無料のオンライン講義COVID-19: Tackling the Novel Coronavirus - Find out more about the outbreak of the novel coronavirus and its implications around the world.。扱う内容は,COVID-19はどのように出現してどのように同定されたか,世界のCOVID-19に対する公衆衛生学的指標,COVID-19対策を進めるためには何が必要か,といったことで,想定受講者は,ヘルスケア従事者と,我々がこのアウトブレイクにどう対処すべきかに関心がある人,とのこと。

感染研へのデマが広まっていてまずいと思っていたが,所長名できっぱり否定した文書が出た。


理論疫学の行政への反映(2020年3月2日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

既に書いたように,クラスター対策班の設置は,理論疫学研究に基づいた政策判断であり,これまでのところ,専門家会議がやったことの中で,最大の意義はこれだと思う。そのクラスター対策班から,日本でもR0のばらつきが大きいという分析結果(NHKの記事とその英語版はあるが,学術媒体にはまだ見当たらない)を出し,それに基づいたメッセージが厚労省のサイトで公表され(家族に感染が疑われた場合の8つの注意も,クラスター発生を抑える視点で書かれている。狭小な居住環境ではかなり難しいのが問題なのと,休校になってしまったことにより軽症の子供が在宅で過ごす場合にどうすべきかのメッセージも必要と思うが),厚労大臣からも発表されたのは大きい。疫学の知見が政策実装される大きな一歩(まだ初めの一歩だし,本当はすべての公衆衛生政策は疫学や医療経済学や行動経済学などの科学的知見に基づいて行われるべきだと思う。英国ではかなりそうなっているが,これまで日本ではほぼ皆無だった)。クラスター対策班がやっている対策が奏功して流行が終息すれば,世界の疫学や公衆衛生学の教科書に載るくらいの偉業。人は必ずしも合理的に行動しないし,全国一斉休校みたいな政治の暴走が邪魔をする可能性もあるので,油断はできないが。

岸田さんがこのtweetで紹介している,渋谷先生が作られた「感染予防のために、できること」というポスター(?)は良いデザインと思う。きれいなので,多くの人に届きそうな気がする。あと2パネル,換気と人混みを避けることを追加したら完璧かと思うが。

英国の保健大臣のCOVID-19と政府戦闘計画についてのプレスリリース。英国はまだリンクを追えている段階なので,封じ込めに全力を挙げているが,そのためにも20秒の手洗いが重要とか,パンデミックインフルエンザとCOVID-19の違いを踏まえてパンデミックインフルエンザ対策計画を修正して作るので,効果的なCOVID-19対策計画を迅速に作れる予定だとか,「政府とNHSは24時間週7日間体制でウイルスと闘っているが,それだけではウイルスと闘うことはできない。全ての個人がウイルスの拡散を制圧する助けになるための役割をもっている。もっと頻繁に手を洗うとか,くしゃみを捕まえる(訳注:咳エチケットのこと)とか,症状があったら救急に行くのではなく,NHSの111番に電話して得られる臨床的なアドバイスに従うとか」といった内容だが,日本にない動きとしては,引退した医療従事者を緊急登録すると言っている。在宅勤務を奨励したり,不要な旅行を控えて貰うことで,アウトブレイクのピークを遅らせるといったことも言っている。COVID-19を制圧するためには,英国でも,個人個人の協力が必要,と訴えるスタンスは日本と同じ。

北海道での確定診断がついた人77人に対してシミュレーションで求めた感染者数推定値940人というNHKニュース(西浦さん,とうとう論文発表よりも国民への周知を優先することにしたのだろう)だが,JCMのEditorial第2弾(IFRが0.3-0.6%と推定したもの)でも,感染者の10%程度が確定診断されているということだったので,割合としてはそう大きく変わらない(20200303注:これ,見出しに引っ張られてしまったが,2月25日時点での北海道の確定数は35人だったので,3%程度で,3倍違っていた)。物凄く大雑把に言えば,たぶん現在の日本の感染者数は数千人のオーダーだと思う(肺炎なのに検査されていない割合が他より高かったら,もう少し多いかもしれないが,たぶん桁は変わらないのではないか)。ただし,マスギャザリングなどで既に感染していた人が急に発症し始めたりしたら,実はもっと多かったのだと,翌週になってからわかるという可能性はあるかもしれないが。

ぼくは会員ではないが(かつて査読したり研究会に呼ばれて喋ったことはある),日本疫学会が新型コロナウイルス感染症特設サイトを2020年3月2日付けで公開した。まだ立ち上げたばかりでこれから充実させる予定らしい。基礎知識として用語解説を丁寧に書いているのはありがたい。これから期待したいのは,FergusonやLipsitchや西浦さんのグループの理論疫学研究の紹介や,用語解説のところに,感染症疫学用語だけでなく,検査性能についての臨床疫学用語も追加してくれること。

厚労省のサイトに,「新型コロナウイルス感染症対策の見解」と,新型コロナ いま、広げないためにというポスターが掲載されている。前者は北海道の特徴や必要な対策について突っ込んだ提言をしている。北海道を地域クラスターとして認識し,できる限り多くの人に,「軽い風邪症状(のどの痛みだけ、咳だけ、発熱だけなど)でも外出を控えること」と「規模の大小に関わらず、風通しの悪い空間で人と人が至近距離で会話する場所やイベントにできるだけ行かないこと(例えば、ライブハウス、カラオケボックス、クラブ、立食パーティー、自宅での大人数での飲み会など)」を呼びかけ,同時に「症状のない方にとって、屋外での活動や、人との接触が少ない活動をすること(例えば、散歩、ジョギング、買い物、美術鑑賞など)、手を伸ばして相手に届かない程度の距離をとって会話をすることなどは、感染のリスクが低い活動」とも書いている。最後に,全国の10代から30代に向けて(念のため書いておくと,症状があまり出なくて感染を広げる「若年層」というのはこの世代のことで,小学生ではないので,休校要請とは何の関係もない。その点,誤解やデマを広げないように注意されたい),人が集まる風通しの悪い場所を避けることも求めている。ポスターはリスコミの手段の1つとして作られたのだと思われる。


クラスター発生を予防できる可能性(2020年3月3日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

何だか軽く受け止められているが,「主な参加者が10代から30代である」(←注:この点は専門家会議の発表に基づいた推測で,詳細は論文待ち)「風通しの悪い空間」「人と人が至近距離で会話する場所」というクラスターに共通する特徴を見つけ([20200319追記] 後に明らかになったが,10代から30代にはあまり意味がなく,「換気が悪い」「多くの人が密集」「近距離で会話や発声あり」の3条件が重なることが重要だった。詳しくは後述),それを避けるように,と呼びかけることの意味は,クラスター発生を予防することにある。人々がこれを守ってくれないと効果は出ないし,守ってくれても,潜伏期間があるので,新規感染者数の減少という形で効果が見えるまでには1~2週間かかる。もちろん,クラスター発生を見つけて積極的疫学調査で接触者追跡し,感染者を隔離していくことも,感染拡大防止のためには重要だし,それも必死になされている。しかし,クラスター対策班の真骨頂は,クラスターに共通する特徴を見つけることにあったのだ。クラスターの連鎖でR0が高まるからクラスター対策すればR0<1にできるかも,という可能性は2月15日に発表された論文で示されていたし,パンデミック予測をしたProf. Lipsitchもわかっていたが,それでもパンデミックを防ぐのは難しいだろうとしていたのは,クラスターに共通する特徴を見つけてクラスター発生を予防するという発想がなかったからだと思う。ぼくもこの発表があるまで気づかなかったが,最初からそこまで読んでやっていたなら,前から天才だとは思っていたが,西浦さんは本当に凄い。メディアに数字が入っていないグラフだけ紹介されている研究は,それを考えたシミュレーションだと思う。NEJMとかJAMAとかLancetに投稿中なのではないだろうか。JCMもIFが5以上はあるが,あの結果が出たなら,ぼくだってトップジャーナルに投稿したくなるし,海外の多くの理論疫学研究者が無視できない成果となるためには,トップジャーナルに載せなくてはいけない。たぶん欧米もこのやり方に追従することを検討し始めるはずだし,本当に2週間後に北海道のエピデミックカーブが終息に向かっていたら,COVID-19に対して大きな希望となる。

このことを対策班が強く言っていないように見えるのは,やったとしても成功するとは限らないので,失敗したときの反動が怖いからだろう。モデルは完璧では無いし,ヒトの行動も理屈に合わない場合も多々あるので,仮に失敗してもクラスター対策班への信頼は失わないで欲しい。川端君の『エピデミック』に出てきたフィールド疫学者グループのように,彼らは確率の雲の中で踏みとどまりながら最善手を探して対策を取り続けているのだから。

首相周辺の暴走に過ぎない全国一斉休校を,やらないよりは感染防御になるだろうとか,他国はやっているとか,社会へのインパクトがあったので価値があったと賞賛するコメントを見かけるが,すべて間違っている。まず,インフルエンザとは違い,小学生が広げている可能性は低い。行動範囲がほぼ近隣に限られている小学生集団では,仮に1人の感染者が入ったとしても,他校に広がる可能性はほぼないので,感染者が出た時点でその学校だけ休校する方が感染拡大防止には合理的である。また,小学生は風通しの悪い場所で至近距離での会話を好まないのでクラスターを形成しにくいと思われる。さらに,ある程度席間が開いていて,授業していれば勝手に隣同士で喋ったりすることはある程度抑制できるが,自由登校で自習とか,学童保育に朝から行けるとかしてしまったら,感染者が1人いた場合に感染拡大するリスクはむしろ上がってしまう可能性がある。やるなら完全に休校して人と人の接触を減らさないと逆効果である。COVID-19で休校が感染拡大防止に役立つなどという研究は,ぼくの知る限り存在しない。インフルエンザとCOVID-19は感染症としての特性がまったく違うので,インフルエンザの知見を利用可能と思い込んでしまうのは大きな誤解である。次に,全国で1ヶ月も休校を続けているのは中国と香港だけだし,他の社会活動制限も強化されているので,流行が終息に向かっているように見えても,休校が感染制御に役立っているという証拠はない。イタリアでもアウトブレイク中の場所だけ休校だし,台湾の新しい休校基準でも,アウトブレイクになるまでは休校の判断は学校単位でなされる。社会へのインパクトは,間接効果として在宅勤務しやすい環境がもたらされたというプラスもあるが,それができる職種や規模は限られているし,全国一斉休校しなくても,在宅勤務を推奨してそれをした企業に補助金を出すことでも可能なはずだ。有給休暇以外の休業補償を100%(ただし日額上限8000円ちょっと)出すという今のやり方だと,安倍政権下で増え続けた非正規労働者が救われない。それに,根拠がなく結果の評価もないアクションが賞賛されてしまうと,首相周辺が余計に調子に乗って暴挙を重ね,緊急事態宣言ができるような立法とか改憲とか言い出す(既に言い出している)。さらに,この暴挙を専門家委員会やクラスター対策班や感染研の活動と結びつけた誤解やデマを広げる人が存在し,それに煽られた市井の人々が,この件とはまったく関係がない専門家委員会やクラスター対策班や感染研への信頼を失うという事態が起こりつつあるので,その意味でも首相の暴挙はマイナスでしかない。専門家委員会が何もしていないという誤解も見かけるが,専門家委員会はちゃんと活動している(第1回会議後の座長発表は失礼ながら酷かったが,それ以後は尾身先生や押谷先生が説明するようになって,情報発信面でも改善された)。専門家委員会の意見を求めすらせず,首相の独断で全国一斉休校要請を出したという暴挙でもわかるように,政策実施権力をもつ首相周辺が専門家委員会の提言を聞く耳をもっていないことこそが問題なのだ。今回やっと厚労省が専門家の意見を聞いてアクションをとってくれたのは,その意味でも大きい。

マスクが品薄という問題だが,クラスター発生中以外は,症状がなければ,どうしても至近距離での会話をしなくてはいけない時や,近くに咳をしている人がいるような場合を除き,する必要はないのだ,ということが共通認識になれば,品薄は解決するのではないか。トイレットペーパーすら店頭から消えるのは,たんなる群集心理で,マスクが品薄になる原因としては,必要ないときまでするから,という側面があると思う。ぼくは今のところ普段はしていない。

北大の学生への通知。専門家会議の北海道在住者宛のメッセージと同様だが,地域クラスターが発生したら,たぶんどこの大学でもこれをやらなければならないだろう。

神戸大も全学の学位記授与式は中止という通知が来た。学部ごと,研究科ごとの対応は未定。

クロ現プラスは,西浦さんのところまでは良かったが(アナウンサーがオッズ比11の出し方を尋ねてくれたらもっと良かった),大阪でCOVID-19だとしたら市中感染したらしい若い女性が,38℃以上が6日続き肺炎で医師が鑑別のため検査を依頼しても断られた映像は,2月29日の「かんさい熱視線」の使い回しだった。そのときも書いたが,これは当然検査すべきだし,こういう事例がどれくらいあるのか,医師会ごとにデータをとって公表すると,未検査のため見逃されているケースがどれくらいあるのか見積もれるはず。次の和歌山の例はクラスター対策のための接触者追跡をしての検査だからまったく意味が違っているのに,そこに触れず,偽陰性の話もせず,優先順位をつけて広く検査すべきという筋にもっていった賀来先生には失望した。


良いサイトが増えてきた(2020年3月4日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

一昨日触れた日本疫学会のサイトもそうだし,昨日の北大のアナウンスもそうだが,良いサイトが増えてきたように思う。

北大医学科の学生によるシミュレーション。若者と高齢者という2つのコンパートメントで,それぞれの間の接触を減らすとR0がどう変わるか,を数値計算している。思考実験としてわかりやすく書かれており良い試みと思う。

東北大学の新型コロナウイルス感染症への対応については,構成員向けのメッセージを日本語,英語,中国語で提供しているのが凄いと思う。留学生も多いのでどこの大学でも必要だろう。神戸大学もアナウンスは出しているが英語のメッセージは2月6日以降出ていない。東北大にお願いして使わせて貰うとかリンクするとかしたらどうだろうか。

プレプリントサーバから論文2つメモしておく。

Lymphopenia predicts disease severity of COVID-19: a descriptive and predictive studyは,リンパ球減少が重症化の予測因子になるというタイトルで,重要な研究かもしれないので後で読む。

An R package and a website with real-time data on the COVID-19 coronavirus outbreakも,中身をまだ見ていないが、データをRのパッケージにした人たちがいるようだ。

学会が中止になったり渡航制限がかかったりして,科研費が執行できなくなった場合,令和元(2019)年度科学研究費助成事業(科学研究費補助金)新型コロナウイルスを事由とした繰越申請の例についてに書かれている通り,3月6日(金)締め切りだが繰越申請できる。申請できるのは代表者なので,分担者は執行残を代表者に伝える必要があり,最近それ関連のメール連絡が多い。

COVID19医療翻訳チームからの発信というサイトがあって,WHOやCDCの発信やJAMAなどの論文の翻訳が公開されている。「本HPは有志医療者が中心となり新型コロナウイルス感染症の診療について現時点で公表されている情報をまとめる目的で作成されました」とのこと。意義ある活動と思う。

Tang X et al. "On the origin and continuing evolution of SARS-CoV-2" National Science Review, nwaa036(2020年3月3日)。ウイルスゲノム解析から,このウイルスが変異を続けていて,L型とS型が流行していると主張し,ゲノムデータと疫学データを結合した包括的モデルが緊急に必要と提言している。このジャーナルはOUPがホストしているオープンアクセスなオンラインジャーナルだが,中国及び世界中の科学技術の最先端の発展を報告するピアレビュー誌とのことで,IFは10を超えている。

テレビやSNSから群盲象評(~群盲象を撫でる)という言葉を思い出した。手を引っ張って別の物を触らせる自称専門家や,象をずらしたり障害物を置いたり押しつぶしたりする権力者が,事態をさらに悪化させているように思う。影響力が大きい人は,基本的事実を知らないなら黙っていれば良いのに。自分程度の発信力ではデマや誤解の拡散に対抗できない。

ここでいう象は,対策の前線に立つ人々にとってはCOVID-19そのものだが,その場合の邪魔は誤報やフェイクデータである。世間一般の人々にとっては,COVID-19であると同時に,対策の前線に立つ人々でもある。COVID-19は対策の前線でも厄介でわかりにくいのだから仕方が無いが,対策の前線に立つ人々に対してくらいは目を開こう。一次情報をちゃんと見よう。こういう意見表明は別だが,ぼくも情報提供したいときは,必ず出典を書いている(web上の情報ならリンクもしている)。出典を確認することが目を開くことになると思う。


世界が混沌としてきた(2020年3月5日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

群馬大学の方が代表でクロロキンを含む臨床試験が2月27日に申請されている。非盲検前向き単群試験なので,何もしない場合や他の治療法と同じ条件で比較することができないが,だいたい8割が軽症,2割が重症化ということは既にわかっているので,副次評価項目「投与開始後14日目までの重篤な疾病等の発生率と内訳」から,binom.testで2割より有意に低いかどうかが検定できれば良いのか,たぶん。

Lancet Global Healthに載っているHellewell J et al. "Feasibility of controlling COVID-19 outbreaks by isolation of cases and contacts"(2020年2月28日)。接触者追跡と隔離によるアウトブレイク制圧の可能性を確率的なモデルでシミュレーションした結果の有効性を示しているようだ。発症前の感染が多くてR0が3.5だったら,制圧には90%以上の追跡が必要とも書かれている。たぶんランダムリンクネットワーク想定なのだろう。スケールフリーネットワークを想定すれば違う解が得られるはず。ちゃんと読んでみないとわからないが。

LancetのCorrespondenceでWang G et al. "Mitigate the effects of home confinement on children during the COVID-19 outbreak"(2020年3月4日)。アウトブレイク中の自宅封じ込めが子供(の心理面)に与える影響の軽減策を論じたもの。こういう側面も考えていく必要がある。

この産経の独自取材記事が出ていて,「2週間経たないと」どころか,中国と韓国の日本大使館が発行したビザを無効にするという入国禁止措置であった。オーストラリアも似たようなことをやっているから,それを真似したのかもしれないが。外務省のサイトにはこの件はまだ出ていないのでわからないが,産経の記事からすると,日本人が帰国する場合は2週間の停留措置がとられるということだろう。産経の記事からすると,この政策決定は,厚労省でなく「5日夕の国家安全保障会議(NSC)の会合で確認する」という話なので,科学的根拠に基づくというよりも,政治判断なのだと思う。IHR2005が設計されたときの基本思想が,こうも簡単に崩れてしまうとは。

イタリアの感染状況は細かく見ていないが,今日のニュースで報道されていた政策が,大学まで含む学校だけの2週間の全国一斉休校だとしたら,やはり愚策だと思う。そこまでしなくてはいけない蔓延状態だとしたら,そこから立ち直るためには,休校だけでなく,中国でされているような都市間交通停止とか外出禁止までやらないと効果が薄いだろう。蔓延状態でないのなら,学校ごと(あるいはせいぜい地域ごと)に休校判断をする,台湾方式の方が合理的だろう。

だんだん世界が混沌としてきた。うまく行かなかったときの反動が怖くても,やはり希望を示すことは必要ではないだろうか。

今後,仮にクラスター対策班の活動がうまく行って日本の流行を終息させることができたとしても,世界中で夏までに同じことができるとは到底思えないので,オリンピックとパラリンピックは中止せざるを得ないだろう。運営委員会の武藤先輩は,中止の方向で手を打っておくべきであろう。考えようによっては,熱中症になる人が選手からも観客からも多発して救急がパンクするという不幸を避けられるので,中止は悪い面ばかりではない。最初から嘘で固めて招致したオリンピックで,現場の人たちはいろいろ苦労しただろうから,延期で済むならそうしたい気持ちもわかるが,地球規模ではいつ終息するかわからないので,延期対応も難しいだろう。


安全保障になるのか?(2020年3月6日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

Bi Q et al. "Epidemiology and Transmission of COVID-19 in Shenzhen China: Analysis of 391 cases and 1,286 of their close contacts"(2020年3月4日)は,1月14日から2月12日まで深圳CDCが患者391人から1286の濃厚接触を追跡して得られたデータの分析から,R=0.4で局所封じ込めに成功したということと,家庭での大人から大人への感染と大人から子供への感染は同じ程度ということを報告している論文だが,この結果から学校閉鎖が有効な介入になることをサポートするかもしれないなんて言ってしまうのは早とちりで,これ家庭内での感染の話だから,子供たち自身が感染を広めているかどうかなんて見てないし,症状が弱かったら感染力も弱いと考える方が自然と諫めるコメントがつくのは健全。後のコメントをした人は疫学のプロでOne Healthを研究している方。最初のコメントをした人もJohn Hopkinsのヘルスセキュリティの講師で,素人ではないはずなんだが。川端君の『エピデミック』にも出てくるが,疫学的推論においては,常にロジックの強度に意識的であることが非常に重要。

JAMAから2つリンクしておく。

Young EB et al. "Epidemiologic Features and Clinical Course of Patients Infected With SARS-CoV-2 in Singapore"(2020年3月3日,無料でダウンロードできるが,いつの間にか,JAMAは個人アカウントを作ってログインしなくてはいけなくなったようだ)は原著論文で,シンガポールのSARS-CoV-2感染者の疫学的特徴と臨床経過について報告している。

Ong SWX et al. "Air, Surface Environmental, and Personal Protective Equipment Contamination by Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) From a Symptomatic Patient"(2020年3月4日)はresearch letter(注:短報のようなもので,一般に原著論文より査読の壁が低いことが多い)で,症状のある患者からのSARS-CoV-2による空気,環境中の物の表面,個人防護用具(PPE)の汚染,というタイトル。シンガポールのデータで,患者3人(で症状の程度も2人が中等度,1人が軽症)だがウイルス排出量に大きなばらつきがあること,空気サンプルはすべて陰性だったこと(排気口は陽性),PPEの汚染は靴表面から1サンプルだけだったこと,などを報告している。サンプルサイズが小さいのであまり情報量はないが(AFPBBが報じているトイレの汚染も1例だし),既報と矛盾はしない。

昨日触れた入国拒否は専門家会議は何も聞いていない話だったと東京新聞が報じている。対策本部に出てきた昨日の国家安全保障会議からの資料2が中国・韓国・イランからの渡航制限の内容と思われる。これも現在の流行状況で有効であるという科学的根拠はない。しかも,国籍による差別を含んでいる(宿主の国籍はウイルス感染とは明らかに無関係)。もちろん,一般に人口移動を制限する方が,しないより感染症の伝播を下げることは,定性的には明らかだ。しかし,どれくらい効果があるのか,デメリットはどれくらいあるのかの見積もりもせず,国家安全保障の観点から政治的に判断というのは,とても危うい(日本だけでなく,複数の国がこれをやっているのは,もっと危うい。昨日,世界が混沌としてきた,と書いたのはそういう意味だ)。例えば,中国が1月に武漢市を封鎖したように,国内でクラスターが発生している地域とそれ以外の人口移動を制限する方が,感染拡大の抑制には明らかに有益だろう。もっと極端な話をすれば,新興感染症の患者が1例見つかった場合,仮にワクチンが存在したなら,リングワクチネーションという方法があり,患者周辺の10万人にワクチンを打てばRt<1となって封じ込めできる可能性が高いが,ワクチンがなくても患者周辺の10万人を封鎖してしまえば,そこから外には感染は広まらないことになる(ワクチンの場合と違って,封鎖圏域内は見捨てることになるが)。しかしCOVID-19は不顕性感染も軽症で診断されないままの人も多いため,陽性の人が1例見つかった時点で既に10万人圏域より外に感染が広がっている可能性があるから,こういう形での封じ込めが成功する可能性は低いし,武漢市封鎖のようなやり方は(中国はSARS流行時も街ごと封鎖というのをやっているが),CFRが2%とか3%の病気では,他の国では人道上無理だろう。市中感染がある程度発生している状況で打つ政策ではないと思う(市中感染発生より前か,クラスター対策が成功して封じ込めに成功する見込みが出てきた後なら,まだ検討の余地はある)。2月1日から流行地からの入国については個別に閣議決定で指定して制限を掛けてきたわけだし。これも単なる首相の「やってる感」アピールだろう。しかもレイシスト的支持者層向けなのが救われない。

先日プレプリントサーバに載っているのを紹介した,"An R package and a website with real-time data on the COVID-19 coronavirus outbreak"というタイトルの論文だが,3月5日付けで更新版がアップロードされていた。前のバージョンでは,COVID-19の公開データへのアクセスを容易にするためのRパッケージを開発したという論文だったが,更新版では,それを可視化したり予測をするウェブアプリも開発したと報告されていた。

クロロキンについてAntiviral ResearchというジャーナルにOf chloroquine and COVID-19(2020年3月5日掲載)というコメンタリーが出たが,とくに新しい情報はなかった。ぼくと同じ認識。2月上旬から中国では治験が始まっているのに,まだ信用できるデータが出てこないのは遅い気がするので,やはりネガティブだったのか?


メディアの役割(2020年3月7日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

昨日,大友良英さんが,舞台を有料でライブ配信するというtweetをされていたので,それを引用RTして,「演劇だけでなく、当面、ライブはこういう形にするしかないのかも。換気を良くして席と席の間を十分に広くとって声を出すのを禁止、飲食なしという形で運営できる劇場やライブハウスの形ができるまでは。もっと難しいのは、どこまでそういう対策をしたらOKかというコンセンサス形成か。」と書いたが,方法論は専門家の助言を十分に得ながら劇場側が主に考えることだろうが,コンセンサス形成は広く議論がなされなくては不可能なので,メディアの果たすべき役割はそこなのではないかと思う。川端裕人『エピデミック』で,新聞記者の赤坂が,棋理文哉の意見(MASUDAさんが引用してくださった)に納得するしかなかった,という場面が出てくるが,現実のメディアの皆さんも,自らがPHEICになった新興感染症アウトブレイクに際してどういう役割を果たすべきなのかを深く考えて動いて欲しい(注:今回,クラスター対策が成功するためには,世間一般の人々の協力が不可欠なので,我ながら少し書きすぎているのは自覚している。2009年のパンデミックインフルエンザのときは,早々に危機的ではないとわかったし,尾身先生に対しても押谷先生に対しても西浦さんに対しても,違うと思うところは違うと書いていた。しかし今回,既に書いたように,クラスター対策はほぼ最後の希望で,失敗すると1年間で世界の半数が感染し,その0.3%が亡くなることを避けるのが難しくなる可能性が高い。もちろん根拠のない政治家の思いつきはどんどん批判してくれて構わないが,クラスター対策班にはメディアの協力も欲しい)。

ハーバードのProf. Marc Lipsitchのグループの先見性というか,視点の時空的広さは凄いな。Kissler SM et al. "Projecting the transmission dynamics of SARS-CoV-2 through the post-pandemic period"(2020年3月6日)は,プレプリントサーバに載っている論文なので,まだ査読を通っていないわけだが,このままだと世界人口の40-70%が感染するパンデミックが起こると予測している彼らだからこそ,パンデミックが終わった後に,このウイルスの伝播の動態がどうなるのかについて予測しようなどと思うのだろう。

Buzzfeedの専門家会議の岡部先生へのインタビュー第2弾はGood Job。語られている内容は,ぼくがこのブログ(2019-nCoVについてのメモとリンクに採録)で,たぶん専門家会議やクラスター対策班はこういう根拠に基づいてこういうロジックで動いているのだろうと解釈し説明してきたこととほぼ一致しているが,こうやって,直接専門家会議メンバー自身の声を表に出してくれると,説得力が違う。

マスクについては,JAMAのこのtweetに載っていることが常識になると良いなあと思う。

北大は職員から感染者が出たため,後期日程入試を中止した。これは各大学考えておかねばならない問題。神戸大の執行部は考えてるだろうか。

昨日,医師アカウントで誤解を招きそうなtweetがあったので,CFRとIFRをごっちゃにした記事がいまだに出るのが腹立たしいとスマホから引用RTした。スマホから長く打てないし補足説明として適切なURLを参照するやり方が思いつかなかったので,舌足らずと思いつつのtweetだったが,Hiroshi Makita, Ph.D.さんが補足してくださったので,「ありがとうございます。スマホから細かく書けなくて。補足すると,ブログの「疫学論文」ページに掲載の西浦さんの論文第2弾にある通り,従来使われてきたのはCFRで,IFRは状況のわかっているCFRから推定しますが,CFRは検査・検出状況に依存するので,IFRを使う方が普遍的議論が可能です」と補足tweetした。本当は,日本疫学会の感染症疫学の用語解説で,CFRとIFRについて(できれば,2009年のパンデミックインフルエンザのときに西浦さんが出した論文でされていたsCFRとcCFRの議論も踏まえて)解説を載せて欲しいところ。

2月24日のWHOと中国の共同報告で可能性について触れられたこともあって,クロロキンの需要が増えているということで,メーカーの1つが供給を確保することに集中していると宣言していた。

中国のCOVID-19診断治療ガイドラインが改訂されて,リン酸クロロキンを武漢の病院で285人のCOVID-19で"critically ill"(重篤?)な症例に投与し,明らかな副反応は皆無であったこと,最新の治療ガイドラインでは18-65歳の患者に対して500 mgを1日2回7日間投与するとなったことが報告されている。この量ならマラリア流行地で村人が店で買ってマラリアの自己治療するのと変わらないから,まあ副反応はないだろう(米国では処方箋なしには買えないが,CDCもマラリア流行地を旅行する人のための予防内服薬として薦めている)。問題はそれでどれくらい効いたかなんだが,285人の治療成績が書かれていないのが不思議だ。

COVID-19だけの話ではないが,Prof. Marc Lipsitchのグループが書いた論文,McGough SF et al. "Nowcasting by Bayesian Smoothing: A flexible, generalizable model for real-time epidemic tracking."(2019年6月7日)が,PLOS Computational Biologyに載る予定とのこと。そこで使った計算コードがNobBSというパッケージとして整備され,2020年3月3日付けでCRANに載った。

ウイルスの分子生物学というか遺伝疫学的なデータとして,Nextstrainの"Genomic epidemiology of novel coronavirus (HCoV-19)"は参考になりそう。

Anderson RMとかHeesterbeek Hといえば理論疫学の大御所で,いま理論疫学をやっている人は,ほとんど"Infectious Diseses of Humans"とか,"Mathematical Epidemiology of Infectious Diseases"で勉強したことがあるはずだが,彼らがLancetに寄稿したコメント,"How will country-based mitigation measures influence the course of the COVID-19 epidemic?"は,死亡と経済影響の両方を最小化することができないために,国によってCOVID-19に対してとっている緩和方策が違っているので,それがCOVID-19の流行過程にどのように影響するのかを論じている。ただ,この大御所たちにして,CFRとIFRの区別をしておらず,季節性インフルエンザのCFRが0.1%のオーダーだというLi L et al.のAm. J. Epidemiol.の2018年の超過死亡を扱ったレビューを引用しているのは残念だ。Heesterbeekなんて西浦さんや稲葉さんとつながりあるはずだから,JCM特集号の西浦さんのEditorial第2弾くらい読んでくれても良いのになあ。もちろん,Prof. Lipsitchが「(各国がとっている)対抗策の秀逸なレビュー」とtweetしている通り,それ以外の部分はさすがと思うが。


症状があったら休みましょう(2020年3月8日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

発症後もスポーツジムに5日間行ったという事例が報告されて,クラスター対策への協力要請が届いていないのか,と絶望しかける。が,ジムに行っていた期間は2月25日から3月1日だったので,「新型コロナウイルス感染症対策の見解」が専門家会議から出る前のことだったか。この事例を他山の石として,症状のある人は外出しないで欲しい。せめて人が集まるところには行かないで欲しい。もちろん発熱4日とか肺炎症状とか,他の症状でも医師への相談が必要と思われる場合は,医師――医療法や地域保健法に基づく現在の医療制度における理想ではかかりつけ医だが,英国のGPやキューバのファミリードクターのような意味での「かかりつけ医」はシステマティックに存在しないのが日本の現状で,その理由の1つは医療法が二次医療圏以上しか計画配備を求めていないからで,どの病院に飛び込んでも(初診料が高くなることはあるにせよ)保険診療が受けられるという利点とは裏腹なのが悩ましいところ――やコールセンター(これは保健所より市町村保健センターレベルにした方が良いかもしれないが)に相談すべきだが。

これは,COVID-19のアウトブレイクが終息した後でも継続する必要がある。風邪やインフルエンザでも薬を飲んで仕事や学校に行くのではなく,休むべき。それを社会規範として受け入れるべき。木村知『病気は社会が引き起こす』が主張する通り。

テレビで橋下氏が2009年に大阪が1例発生時に府下全校休校したことを,さも自分の英断であるかのように言っているが,当時の新型インフルエンザ行動計画では,都道府県単位で1例でも患者が出たら全校休校と決まっていたのに従っただけのことだ。行動計画がそうなっていた理由は,フランスのデータに基づいた数理モデルで,インフルエンザの場合に患者数を最小にするにはそれが有効とわかっていたからだ。しかし,大阪と兵庫しかそれに従わなかったのは,2009年のパンデミックインフルエンザはcCFRもsCFRも十分に低く,とくに日本では500例の時点で重症化ゼロだったので,患者数を最小にしなくても良いと判断できたからだ。過去の話だから誤魔化せるとは思わない方が良いと思う。

加藤大臣が感染症法の適用でこうするしかなかったと言っているが(当時は専門家会議が招集されたのより遥かに前なので,誰の判断なのかわからないが,感染症法第6条9が定める新感染症は病原体が特定されていないという要件ではないので,明らかに法律には反している。もっとも,ショーンKYさんがtweetで指摘される通り,厚労省内部的にはその認識が共有されていたのかもしれないが,病原体が特定されていても疫学的特徴が未知な時点では,どのように広まるか,どれほど死者がでるか,どれほど医療資源が必要かなど,何もわからないので,「わかっている」とは言えない),1月27日の時点で,病原体が2019-nCoVと呼ばれていたウイルスであることだけはわかっていたが,疫学的特徴はほとんど未知であり,一方,これがヒト=ヒト感染する新興感染症であって,湖北省のように急速に蔓延する可能性があることもわかっていたのだから,その時点で新感染症にしない理由はなかったはずだ。このメモにはその日にそういうコメントを書いているが,国会議員もメディアも1人としてその質問はしてくれなかった(もししてくれていたら,ショーンKYさんのtweetに書かれているような厚労省の認識が顕わになったので,それで良いのかという議論に進んだはずだ)。自分の声の届かなさが悔しい。

後でTAKASHIMA Hidehiroさんのtweetで知ったが,法学的解釈も,SARSの新感染症から指定感染症の切り替えが,病原体の特定が要件だったわけではないという,普通に感染症法や新型インフルエンザ等対策特別措置法の条文を日本語として読んで考えられる解釈と違っていないことが書かれている文書を知った。ぼくは法律のプロではないが,法解釈は官庁内部の暗黙知に従うのではなく,TAKASHIMAさんが示された文書にあるように,あくまで条文そのものに依拠すべきであって欲しい。

数日前から東京都が公開している,COVID-19のデータ(CSVでダウンロードできる)をGitHubでオープンソースのコードを開発してビジュアル化するサイトは,東京都副知事の企画だったのか。センスいいなあと思うと同時に,東京都ができるなら厚労省にだって制度的にはデータのCSV公開ができるんじゃないかと思った。CSVデータのフォーマットを揃えるだけなら技術的にはどの都道府県の誰でもできるはずだし,ビジュアル化のコードもオープンソースなんだから流用できるだろうし。

WHOが2020年3月3日に発表した文書の"2. How to manage COVID-19 risk when organizing meetings & events"は,なぜ集会やイベント運営者がCOVID-19について考えなくてはいけないか? と問題提起し,集会やイベントの事前,最中,事後にCOVID-19のリスクを避ける,あるいは減らすために鍵となる点をリストしている。以前,マスギャザリングへ運営者に向けた中間報告は出ていたが,今回のものはもっと小規模な集会やイベントも対象としている。

大学ジャーナルオンラインの記事には,リンクもしているのに,学術会議の声明を読めばわかる,学術会議が基本的に専門家会議の方針を支持していることが,なぜ触れられていないのだろう?


クラスター分析論文(2020年3月9日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

英国の医療システムは,GPと呼ばれるかかりつけ医が通常の一時診療をし,入院や高度な医療が必要なら病院へ紹介するという点が確立しているが,GP向けのCOVID-19対応実践ガイド(2020年3月6日,BMJ)を見ると,咳,熱,息苦しさの症状が1つ以上あれば,(通常通り)GPに電話相談すること,となっている。その上で,発症14日以内にハイリスク国から帰ってきたか,COVID-19感染が既にわかっている人と濃厚接触があったら,直接地域のHealth Protection Teamに報告することとなっている。GPは重症と判断したら999に電話,軽症なら自己隔離を勧める,など,GPが果たすべき役割が細かく規定されている。GPは住民2000人当たり1人くらいの割合で存在しているはずなので,保健所のコールセンターよりずっと相談しやすいはず。やはりプライマリケアは大事だと思う。もちろん,GPを特徴とする英国NHSだって欠点がないわけではないが。

西浦さんたちのNishiura H et al. "Serial interval of novel coronavirus (COVID-19) infections"(2020年2月27日受理)は,世界で既に発表されている28組の感染者=被感染者ペアデータの分析から,COVID-19のシリアルインターバル(最初の感染者の発症時から二次感染者の発症時までの時間。発症間隔という日本語を西浦さんは使っている)を推定した論文。中央値4日で,潜伏期間の中央値より短いことから,かなりの感染が未発症時に起こっていることを示唆している,と書いている。シリアルインターバルが短いので接触者追跡が難しいとも書いている。この論文が投稿されたのは2月14日だから,西浦さんがクラスター対策を着想したきっかけとなった論文が出た前日のことだ。

日本でも感染者1人から発生する二次感染者数のばらつきが大きいことは,3月2日の時点でNHKニュースにもなっていたし,厚労省のQ&A(3月2日にはQ12だったが,今はQ14になっている)にも載っていたが,プレプリントサーバにはNishiura H et al. "Closed environments facilitate secondary transmission of coronavirus disease 2019 (COVID-19)."(2020年3月3日)としてアップロードされていた。著者はクラスター対策班のメンバーとなっている。伝播リスクが高い状況を同定するため,2020年2月26日までの11のクラスターの110症例を調べている(東京の4つのクラスター,愛知,福岡,北海道,石川,神奈川,和歌山からそれぞれ1つのクラスターを含んでいると書かれているが,残り1つはどこなんだろうか? 数え間違い? 書き忘れ?)。すべてのクラスターが室内環境(フィットネスジム,屋形船,病院,雪まつりの換気の悪いテントの食事スペースを含む)での濃厚接触と関連していたというのはNHKでの発表の通り。110症例のうち二次感染者を生み出していたのは27例(24.6%)しかいなかったというのもNHKでの発表の通り。この二次感染者数分布は,平均0.6,分散2.5で,閉鎖環境にいた感染者は,オープンエアの環境にいた感染者に比べて,18.7倍(95%CI: 6.0, 57.9)のオッズを示したこと,この分布の95パーセンタイルを超える(この場合,3人以上に感染させる)のをスーパースプレッディングイベントとすると,そういうイベント絡みの感染者は11人いて(=10%,というのは95パーセンタイルと矛盾するような気もするが,2人以上の感染者が絡むイベントがあるということだろう),そのうち9人は閉鎖環境で感染を発生させていたことから,閉鎖環境でのスーパースプレッディングイベントのオッズ比は29.8(95%CI: 5.8, 153.4)であったというのは顕著な結果だ(フィクションだが,川端裕人『エピデミック』の終盤で,フィールド疫学者島袋ケイトが真の感染源に気づいた場面で出てきたオッズ比より高い)。閉鎖環境がスーパースプレッディングイベントを起こすのは,フランスのスキーバンガローや韓国の教会や病院関係のクラスターを考えればありそうなことで,Dispersion vs. Controlを考えれば,閉鎖環境での不要な濃厚接触を減らすことで,日本におけるRを1未満にするのに十分であると期待する,という主旨になっている。論文の主旨が,概ね3月2日から3日にメモした読み通りで良かった。クロ現プラスではオッズ比11というパネルが出ていたが,あれはデータが違うのだろうか。なお,たぶん,クラスター対策でこれくらい減るというシミュレーションの論文を別途投稿していると思うのだが,それはまだ見つからない。

北海道でも,東京都のオープンソースのコードを使って,道内の最新感染動向というページができた。ただ,少し残念なのは,本家の東京都はデータをCSVで公開しているのに,北海道はCSVでダウンロードする仕組みがない(少なくとも簡単には見つからない)点(もっと残念なのは,道庁の新型コロナウイルス感染症についてからリンクされていない点。都内の最新感染動向は東京都のドメインなので信用できるが,道庁がリンクしてくれないと真正性がわからない)。47都道府県で統一フォーマットでCSV公開されれば,厚労省がやらなくても自動集計できるのに。今後に期待か。

Gigazineが新型コロナウイルス対策はとにかく「手洗い」に尽きるとWHOが様々な噂をメッタ斬りと題して,WHOのCoronavirus disease (COVID-19) advice for the public: Myth bustersを日本語でわかりやすく紹介している。これは良い仕事と思う。

専門家会議についての報道を見たところ,3月19日までに北海道のクラスター対策がうまくいったかどうか評価するという見通しが示されたようだ。ただ,クラスター発生予防はそこで終わりではなく,ワクチンか治療薬が見つかるか,国内終息まではずっとやらなくてはいけないはず。テレビの報道は19日までは,みたいな伝え方をしているのが怖い。尾身先生が説明された,「換気が悪い」「多くの人が密集」「近距離で会話や発声あり」という条件は,クラスターが発生しやすい条件なので,この3条件が重なる場を避けることは,少なくとも,その地域の新規感染者がゼロの状態が2週間続くまでは必要になるだろう(新規感染者が1人検出されることは,おそらくその10倍は感染者がいることを意味するので)。

逆に大型イベントでも,換気が良く,声を出さず,密集しないなら,WHOのイベント実施ガイドラインに従ってやって良いという話になっていくのではないか。スポーツだと卓球やバドミントンは換気と両立しにくいので,やり方が難しいかもしれないが,野球やサッカーは観客の入れ方を工夫すれば実施可能であろう。 ライブハウスや屋形船は(あるいは,北大の岸田直樹さんがさきほどtwitterで指摘していたようにお通夜などは),この3条件を避けるような営業形態を工夫しなくては,なかなか難しいだろう。演劇や音楽演奏は有料配信にする試みも始まっているし,スポーツジムは個室化とかインストラクターがインカムで指導するとか,やりようがありそうだ。夏になったら減るという言説も否定されていたが,夏になって減るという発想が間違っているのは,熱帯でも流行していること,COVID-19同様に新興感染症であった2009年の新型インフルエンザは日本でも夏から本格的に流行したことを考えれば最初から明らかだったのに,減ると思いたがっている人が多かったのは不思議だった。


傾きが緩い意味(2020年3月10日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

普通,ヒト=ヒト感染が起こるように変異した感染症の場合,基本再生産数R0は初発患者から二次感染者に感染するときも二次感染者から三次感染者に感染するときも変わらないが(フィクションでは変わることになっている場合もある),行動様式や環境条件が違う集団では違っていても当然だし(例えば,蚊が媒介する感染症だったら,蚊が多い環境ならR0>1でも,蚊が少なければR0<1となることは,直感的にわかるだろう),感染の世代を重ねるうちに,集団内に免疫をもつ人が増えてきて,再生産数は減っていく。あるいは,ワクチンを打ったり,予防薬や治療薬を飲むことでも,やはり再生産数は減っていく。そういう状況に至ってからの再生産数を実効再生産数(記号はRtを使うことが多いと思う)と呼ぶ。R0が2である場合,平均的には,発症間隔が過ぎるごとに,新規感染者が2倍ずつ増えていくことになる(ばらつきがあるので,実際にはぴったりとは合わないが)。元々R0は,20世紀初頭にLotkaが見つけた内的自然増加率に基づいて定式化されたパラメータであることを考えれば,1回だけ侵入した感染源からの感染拡大(point source propagation)の場合,流行初期の新規感染者数が指数関数的に増加するのは当然である。横軸に日付,縦軸に新規感染者数の対数をとったグラフを書くと,当然,最初のうちは直線になるはずで,R0はこの直線の傾きである。仮に,新規感染者数が一定の割合で過小評価になっているとして,定数倍によって推定される真の新規感染者数の推移を見ても,直線が上下にずれるだけで,傾きは変わらない。仮に,検査数の上限のために新規感染者数が押さえられているとしたら,指数増加でなくなるので,片対数グラフで直線にならない。従って,昨日からtweetを賑わせているように(自分でデータを確認していないので,それ自体に選択バイアスや情報バイアスがある可能性もあるが),日本の新規感染者数の推移が,片対数グラフ上で他国よりも傾きが緩い直線に乗っているのなら,(仮に検査が絞られているために絶対値としては過小評価だとしても)日本におけるRが小さくなっていることを意味する。クラスター対策の結果はあったとしても3月12日以降にならないと出てこないから,このこととは無関係だ。理由として考えられるのは,かなり早期から手洗いの重要性を強調し,わりと多くの人に手洗いの習慣があったこと,元々の対人距離が他国より大きくあまりスキンシップをとらないこと,マスクをしている人が多いこと,などだろうか。専門家会議が「一定程度,持ちこたえている」と言ったこととは整合性がある。

Lancetに武漢の成人入院患者データの後向きコホート研究から臨床経過と死亡のリスク因子を調べた論文が載っていた。Zhou F et al. "Clinical course and risk factors for mortality of adult inpatients with COVID-19 in Wuhan, China: a retrospective cohort study"(2020年3月9日掲載)である。あとでちゃんと読もう。


迅速な情報集約と公表のシステム化の必要性(2020年3月11日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

注意深く厚労省のサイトや論文を見ていれば公表されていることでも,記者会見などでメディアが騒ぐまでは半月から1ヶ月近くのタイムラグがあるのは,リスコミ戦略なのだろうか(対策がうまく行かなかったらスペインかぜ規模のパンデミックになるという予測は1月末時点で立っていたことだ。このメモのその頃の記述を見ればわかる)。それってリスコミとして筋が良いとは個人的には思わないのだが。例えば,クラスター対策班が3月3日にプレプリントサーバにアップロードした論文(3月9日に紹介した)には,クラスター発生の場所として「室内環境(フィットネスジム,屋形船,病院,雪まつりの換気の悪いテントの食事スペースを含む)」と,「病院(hospitals)」が含まれているのだが,メディアが注目していないので,これもきっと半月後くらいになってから騒がれるのだろう。しかし,ぼくでさえクラスター対策が始まった直後の2月28日に考えたことだから,クラスター対策班や専門家会議は当然考えているだろう。入口なども含めた他の患者との完全分離は可能だろうか? もちろん患者自身が受診時点でわかっているはずはないのだから,何度か書いているように,個人的には,線引きとしては「肺炎外来」のような形にするしかないような気がするが,この「どこで線を引くか」という議論を,十分な情報共有をした上で,さまざまな分野の専門家や実務者がオープンに議論して摺り合わせて行くことが本来のリスコミの役割だと思う。

検査よりも大切なのは,情報の集約公表体制の整備と迅速化だと思う。何度も書いているように(昨日もtweetしたが),感染症法で1類から4類は全数報告することになっているので,COVID-19も指定感染症になった時点で(もちろん新感染症になっていたとしても同じ),全数報告疾患として医療機関→保健所→都道府県感染症情報センター→国立感染症研究所で集約してIDWRとして毎週発表というサーベイランスシステムは存在している(感染症サーベイランス事業)。しかし,この仕事は他の仕事もしている職員が兼務しているのが普通で,その人手も圧倒的に少なく,しかも手作業がほとんどであるため,例えば3月10日に最新のデータとして公表されたのが3月1日までの1週間であるという遅さになってしまっている。検査は都道府県衛生研究所や,今後は民間でもされるかもしれないが,そこから検査を依頼した医師にデータが戻ったら,自動的にオンラインで全国規模のデータベースにアップロードされ,即時に集計結果が公表されるというシステムを作ることは可能だったはずだ。それをすぐに実現することは難しいだろうが,医師から保健所への報告をオンラインにして(なっているかもしれない。現状は知らない),保健所や都道府県感染症情報センターに専従者を配置し,感染研の担当者を増やせば,毎日CSV更新くらいは可能ではなかろうか。

もう十年以上前から思っているが,もう一つ情報の集約と公表体制を強化して欲しいのは,人口動態統計である。日本は,海堂尊『死因不明社会』に書かれているように,死後死因究明が積極的になされない場合が多いので,死因統計の信頼性は欧米に比べると低いが(とはいえ,全国がん登録が始まる前,地域がん登録への協力に地域差が大きかった頃には,DCO [Death Certificate Only] 割合という,死亡時に初めてその人のがん罹患が報告された割合を,がん罹患者数の推定の補正に使っていたくらいなので,そこそこ信頼できる),死亡届は必ず市区町村に提出されるので,数としての死者数については信頼できる統計がある。しかし,これも公表が遅くて,しかも個人レベルのデータを使うための手続きは,米国などに比べるとずっと面倒なのが欠点だ。2020年3月6日に公表された最新の人口動態統計月報は,2019年10月のデータなのである。これを見ると2019年10月の日本の死者数が113,257人だったことがわかるが,日ごとの値が知りたかったら死亡小票を請求して自分で集計するしかない(公衆衛生分野では随分前からNational Death Indexを作るよう求めているが,実現に向かうような動きは見られない)。人手が足りないのだとは思うが,半年前の値しかわからないのは,さすがに時間が掛かりすぎと思う。例えば,仮に,既にCOVID-19で亡くなっているのに検査されず診断されていないための過小評価があるとしたら,1月以降の日ごとの死者数が,発症間隔推定値である5日か6日ごとに指数的に増加しているはずであり,その増加分がCOVID-19による超過死亡と考えられるだろう(前年同時期と比べて季節性変化成分がないか検討が必要だが)。人口動態統計についても,その気になればオンライン即時集計システムもハードウェアとしては構築できるはずだが,政府はその辺りに力を入れてくれていないのが大変残念(それでも,医療現場やコミュニティレベルでとられているデータが自治体や全国レベルではまともに集計されない,というかつて途上国でよく見られた状況よりはマシなのだが,例えば戦闘機1台分の資金をこちらに振り分ければ,システム開発と運用に必要な専従職員の雇用くらいできるのではないか?)。

インフルエンザについては,WHOがFluNetという世界規模のサーベイランスの仕組みを作っているが,それでも途上国からの報告値の信頼性が低いことは,予測を難しくしている。COVID-19については,流行早期からJohns Hopkins大学やWHOのArcGISを使ったサービスなどの形で感染者数と死亡者数の情報が提供されてきたし,日本でも多くの方がボランティアで情報収集し可視化してくれているが,おそらく情報収集部分が手作業なので,持続可能性に限界があると思う。地球規模で正確なデータを迅速に(できるだけ自動化して)集約し整理し,情報密度が低い国や地域からの情報については空欄が多くても良いので統一フォーマットの,CSVやXMLやJSONのような機械可読な形で公表する仕組みを確立することが必要だろう。それこそWHOが音頭をとってやったら良いと思うし,パンデミックになってしまった現在,GAFAなど巨大IT企業の協力を得たら可能と思うが。

ハーバードSPHのProf. Lipsitchが3月9日に,感染拡大させそうなマスギャザリングイベントとしてボストンのSt. Patrick's paradeに反対していたが,今年は中止になったと発表されて良かった。

20年近く前に「マスメディアへの要望」という文章を書いたが,取材対象の「専門家」を正しく選んでほしいという項目を追加すべきかもしれない。Prof. Marc Lipsitchのこのtweetと,そこへのコメントによると,Washington PostやWall Street JournalはCOVID-19関連の記事は無料提供する仕組みを作ったらしい。COVID-19は人類共通の敵なので,学術誌の多くもCOVID-19関連論文をオープンアクセスにしているように,メディアもこれだけは無料(あるいは格安)にしたらどうか。そうすると,受けを狙う記事を出す必要がなくなり,結果として情報としての質も上がると思う。まあ,民放テレビは広告で回っていて,そもそも視聴者は金を払っていないから,そこには応用できないが。

Prof. Lipsitchが指導している大学院生が筆頭著者になっている論文,Li R et al. "The demand for inpatient and ICU beds for COVID-19 in the US: lessons from Chinese cities"(2020年3月)が,ハーバードの機関リポジトリで公開されている。武漢市と広州市のデータから,米国においてCOVID-19の患者とICUベッドの需要がどうなるかを予測した論文。武漢のようなアウトブレイクが米国の都市で起こったら,年齢分布の違いを考慮すると,ピーク時には成人1万人当たり2.1-4.0人という重篤患者数が予測されるし,基礎疾患として高血圧がある人が多いことを考慮すると,その数字は成人1万人当たり2.6-4.9人になるだろうとし,それは米国の医療の許容量を超えると論じている。また,都市封鎖(lockdown)をしても,潜伏期間や入院から治癒あるいは死亡までの期間がかなり長いためもあって,武漢では1ヶ月後,広州では2週間後が入院患者や重症者のピークだったので,すぐに患者が減るわけではない,という点も指摘している。インペリグループの研究もそうだが,迅速性を考えると,重要な論文を大学の責任において公開するというやり方もありかもしれない。

安倍政権は非正規労働者にも日額4,100円出すとアピールしているが,賃貸集合住宅住まいで月収10万円で都市部に住んでいたら,その額ではとても憲法25条が保証する「健康で文化的な生活」はできないだろう。それよりも,一斉休校要請は取り消し,クラスター発生状況から休校の必要がある場合のみ休校(ただし学童保育も含めてすべて休み,屋外の散歩やジョギングは良いが人混みに行くのは禁止,と徹底する)とすれば,休校数が減る分,その間の生活保障として,政府が,全世帯均等に日額15,000円くらい出し,休校によって給食の納入をしている酪農家など一次産業従事者と食品加工業者,教職員にも政府が金を出す,くらいのことは同じ額でできるのではないか(試算したわけではないので自信はないが)。しかしどこかの世論調査で一斉休校を評価している人が6割以上いるという報道を見たので,安倍政権は取り消さないだろうなあ。なぜ明らかに不合理な施策を支持してしまう人がいるのか不思議でならないが。

神戸市は小中学校の休校を3月25日まで延長するという報道があった。COVID-19の流行が現在の神戸の状況なら,小中学校だけの休校には意味ないんだがなあ。 選抜高校野球中止が発表されたが,甲子園での野球は,選手にとってはクラスターが発生しやすい3条件に一つも当てはまらないので,無観客なら問題ないと思う。何の根拠もない全校休校なんてさせるから「選手の健康が第一」などという建前を押し通さねばならなくなる。はっきり言って安倍首相の暴挙と,それに逆らえない高野連のせいと思う。

WHO神戸センターのCOVID-19特設ページに,2月24日に発表されているWHOと中国の合同ミッションによる報告書の,有志による邦訳が載った。

JAMAのWang CJ et al. "Response to COVID-19 in Taiwan: Big Data Analytics, New Technology, and Proactive Testing"(2020年3月3日掲載)はViewpointであって原著論文ではないが,Supplementとして提供されている表(いつ何をしたかの時系列一覧)が情報多くて良い。台湾がどうやってCOVID-19に対処してきたかをまとめたもの。

暫く前から注目しているクロロキンだが,Yao X et al. "In Vitro Antiviral Activity and Projection of Optimized Dosing Design of Hydroxychloroquine for the Treatment of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2)" Clin Infect Dis(2020年3月9日掲載)が出ていた。培養細胞での実験だが,ヒドロキシクロロキン硫酸塩の方がリン酸クロロキンよりもEC50が小さいので低用量でSARS-CoV-2に効く可能性ありという主旨。


血清抗体検査(2020年3月12日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

昨日の日経の編集委員矢野寿彦氏による記事新型コロナ、日本の検査遅らせた「疫学調査」は,あまりに事実を誤認した陰謀論に陥っていて,この記事によって疫学への信頼が失われることは対策に有害なので批判しておく。有料記事だが,登録すると月10本までは無料で読めるので,全文読んだ上での批判である。

この記事には2つの大きな誤解がある。おそらく上昌広氏と同じ誤解と思われるので,氏の意見に影響されているのだろう。その誤解とは,

  1. SARS-CoV-2に感染している人は,検査すればわかるという思い込み
  2. 積極的疫学調査が公衆衛生の発想だから正確なデータにこだわって民間に参入させなかったという思い込み

である。

実際は,前者については,無症状や軽症な人はウイルス量が少ないので,鼻腔スワブや咽頭スワブに偶々ウイルス遺伝子がつかなかったら,いくらPCRの増幅能力が高くても検出されない。既に書いた通り,検出限界以下ということだ。つまり,増幅できるかどうかがサンプリングの仕方に依存するので,仮に自宅でサンプルして郵送で検査のような仕組みができたとしても,無症状や軽症では,感染していても陰性になる可能性がかなりある。それが,検査対象を無闇に増やさない本質的な理由であって,最近専門家委員会の尾身先生が言い出した検査能力の限界というのは,あるとしても副次的な理由である。民間や大学の協力を求めて検査能力を拡大できなかった理由があるとすれば,それは精度や検査キットなどの話ではなく,患者の人権を守る上で,守秘義務契約など法や制度的なものの整備が間に合わなかったのではないかと思う(これも既に書いた)。この,検査して陰性だった場合に,感染していないとは限らず,感染しているかどうかわからない,という事実を説明しないでおいて,最後の段落で「安心検査」の拡大には専門家が否定的だと書くことは,専門家への疑念を煽ることになりかねない。

後者は,積極的疫学調査が公衆衛生の発想というところまでは正しいが,その第一の目的は,クラスター内の患者をすべて追跡して見つけ,隔離などの手段によって,それ以上感染を広げないことにあって,データをとることではない。和歌山県のクラスターの検査のため,大阪府の協力を得たことからもわかるように,精度の統一など大した問題ではない(そもそも上述の通り,陰性と出ても感染している人は少なくないので,感染研キットに拘る意味がない)。

感染隠しを疑う声が高まったのは,上医師ら,陰謀論を唱える自称専門家がワイドショーやSNSで騒いだことや,そこに乗ってしまうこの新聞記事のようなものこそが原因なのに,その自覚がないというのは新聞記事として致命的だと思う。

もちろん,クラスターにおける積極的疫学調査によって得られたデータは,疫学的な分析にも使っているが,これは副次的な目的である。既に書いた通り,積極的疫学調査で見つかったクラスターからクラスター発生の共通条件を見つけて予防に使うというのは世界初の試みで,西浦さんが天才だから思いついたことだと思う。

3点目の批判をすると,保険適用後の自己負担を公費でカバーするのは,データを集めるためではなく,感染拡大を防ぐためである。疫学調査に濡れ衣を着せるのもいい加減にして欲しい。1類,2類感染症と感染力のある結核患者の入院医療費が公費負担なのと同じで,「社会防衛」のための医療費が公費負担になるのはCOVID-19に限ったことではなく,公衆衛生の常識である(保健行政論の講義資料にも載せている)。

なぜこうして検査についての陰謀論に陥る人がいるのかを考えてみると,2つの目的の違う検査が同時進行していることをわかっていないからだと思う。つまり,クラスター発生地を中心として,これまでも,濃厚接触のリンクが辿れる場合は,そのリンクを追って無症状でも軽症でも検査していた。この目的は感染拡大を防ぐためである(おそらく,和歌山での検査は,クラスター対策班のファーストミッションとしての成功事例ではないかと思っている)。それと平行して,入院治療の必要がある肺炎患者が,COVID-19であったときにcritically illになったら迅速に人工呼吸器とかECMOとかの救命措置をしないと死亡してしまうため,そうなる前にCOVID-19であるかどうか鑑別診断するための検査も行われてきた。これが,医師が必要と判断したときに保健所経由でオーダーされる検査で,患者の命を救うために行われてきたわけである。後者における問題は,リンクが追えない市中感染の方について,クリニックを肺炎症状で受診した患者を診察した医師が,鑑別診断のために検査が必要と判断して保健所に連絡したのに拒否される場合である(クロ現プラスなどテレビでも何例か報じられていた)。これについては,都道府県医師会ごとに,オーダー数と拒否事例数を集計して,その合計が本当にその地方の検査能力を超えているなら,拡充すべきであろう。専門家会議もこういう拒否は無くすべきという判断をしているのが,この数日の尾身先生の発言につながっていると思う。

検査体制の整備目標は,これら2つの目的の検査を拒否せず実施できることにおけば,必要十分である。もしかすると前者の余力を残すために後者を拒否する保健所があったのかもしれないが,それは優先順位を間違えている。

鼻腔スワブや咽頭スワブをリアルタイムRT-PCRで検査するという方法でスクリーニング的にランダムサンプルされた無症状者の検査をしたら,感染しているのに陰性という例が多いとしても,しないよりは感染状況の把握に役立つのではないかという意見があるが,検査能力を圧迫するし,ちょうど鼻腔や咽頭にSARS-CoV-2ウイルスがいるときに検体を取らないと検出できないので,集団における感染状況の把握には向かない。その目的なら,血清抗体(必ずしも中和抗体でなくても良い)を調べる方が良い。ちょうど今日発表されたクラボウが中国から輸入するIgGとIgMを検出するイムノクロマトキットは,リリースには「感染時に体内で生成される特定の抗体を検出するため、感染初期の患者に対しても判定が可能」と書かれているが,感度や特異度が書かれていないのが気になる。検索してみたところ,クラボウが輸入しているキットの開発元は,おそらくBioMedmicsで,そこの情報によると,397人のリアルタイムRT-PCRで確定診断がついた感染者のうちこのキットで陽性になった人は352人(感度は352/397=88.66%)であり,128人のリアルタイムRT-PCR陰性の人のうちキットで陽性となったのは12人(特異度は(128-12)/128=90.63%)と書かれている(追記20200315:三重大学の奥村先生から教えていただいたが,クラボウのとは違うものらしい。そうなるとクラボウがどこから輸入するのか不明だが)。RT-PCR陰性の人のうち約1割から抗体が検出される理由として考えられるのは,このキットで使われている標識抗体が,検出対象にしている「特定の抗体」だけに結合するのではなく,他のタンパクにも反応してしまう可能性の他に,治癒後であるという可能性もある。マラリアやデング熱でもイムノクロマトを利用したRDT(Rapid Diagnostic Test:迅速診断検査)は良く使われているが,抗原に対するRDTと抗体に対するRDTは別の意味をもっている。抗原に対するRDTで陽性ならばその病原体が血液中に存在することを意味するが,抗体は治癒後でも暫く血中に存在するので,抗体陽性は,いま感染しているかどうかではなく,感染した経験を示すことになる。いずれにせよ,特異度が90%程度しかないのでは,有病割合が低い対象者についてスクリーニングしたら,陽性反応的中率が低くなってしまってあまり役に立たないというのは,疫学の基本である。

しかし,血清疫学という研究分野では,治癒後も暫くは抗体が残ることを逆手にとって,集団における感染状況を把握する方法が確立している。最近感染した人は,感染強度が弱かった人や,治癒後時間が経っている人よりも血液中の抗体の濃度が高いので,血液を何段階かに希釈し,抗体が何段階希釈までELISAやIFATで検出できるかを調べれば,その抗体の濃度を抗体価として把握できる。抗体価の分布を調べれば,集団中の流行状況を評価することができるわけである。個人の鑑別診断としては感度や特異度が不十分でも,抗体価の分布はある程度信頼できる。イムノクロマトにしてもELISAにしてもIFATにしても,確定診断のためのリアルタイムRT-PCRとはサンプルも検査機器も競合しないので,必要な検査の邪魔をせずにデータを取ることができる。

既に紹介したように,日本でも文部科学省から5000万円の研究費を受けたウイルス学者のグループの研究課題の中に血清抗体検出キットの開発が含まれているので,もしかしたら,もっと感度や特異度が高いキットができる可能性もあるが,抗体検出による限り,原理的に治癒後なのに陽性となるケースを除外することはできないので,特異度の改善には限界があり,これをリアルタイムRT-PCRの代わりに確定診断に使おうというのは筋が悪い。

参考までに,『わかる公衆衛生学・たのしい公衆衛生学』の「感染症の疫学」の草稿の中にあって長さの関係でボツになった,血清疫学についての説明文を載せておく。

A.パプアニューギニアでの血清疫学研究


パプアニューギニア低地に大きく分けると4つの地域に居住しているギデラと呼ばれる狩猟採集民は,エネルギーもタンパク質も十分に摂取していて,鉄摂取量に至っては,海沿いの村落で30 mg,内陸と南方川沿いで60 mg,北方川沿いで100 mgと,日本の栄養所要量の3倍から10倍に達している集団です。主食は芋類やサゴヤシというヤシの木の幹に詰まっているデンプンを川の水で絞り出して沈殿させて得たものですが,サゴの摂取量には大きな村落間差があって,それが鉄摂取量の村落間差の原因になっています。


この地域でマラリア患者が多いことは聞き取りや観察の結果からわかっていましたが,血液検査ができなかったので確定診断はできていませんでしたし,どの程度の頻度でマラリアに罹るのかという疾病負荷の情報はありませんでした。1989年に採血をともなう調査をした結果,村によって貧血の人の割合に違いがあることがわかりました。北方川沿いと内陸には貧血の人がまったくいなかったのに対して,南方川沿いと海沿いでは10~30%の人が貧血でした。


この血液サンプルは,現地に発電機を持ち込んでその場で遠心分離し,血清として凍結して日本に持ち帰りました。この血清を疾病負荷の推定に使う方法が血清疫学です。マラリア原虫は煙幕抗原をばらまくなどの防御をするため,患者になるとマラリア原虫への抗体はできるのですが,その抗体は中和抗体となりません。しかし,いったんできた抗体は数ヶ月から2年程度は血清中に存在し続けることが知られていますので,頻繁に感染した人や,感染したばかりの人では,抗体が高濃度で存在します。蛍光物質で標識した抗原を2倍,4倍と段階的に希釈した血清と反応させると,血清中の抗体が多いほど高い倍率で希釈しても蛍光を発します(それ以上希釈すると蛍光が見えなくなる限界の希釈倍率を抗体価と呼びます)。この,間接蛍光抗体法という方法でギデラの人々の血清を測定した結果,熱帯熱あるいは三日熱のどちらかのマラリア原虫に対する抗体価が1:64以上(比較的最近の感染があったと考えられる値)だった割合は,海沿いで100%,北方と南方の川沿いでは90%に達していたのに対して,内陸では30%に過ぎませんでした。これは調査中の実感とも合っていて,海沿いや川沿いでは夜間になると猛烈な蚊の襲来を受けたのですが,内陸の村では蚊に刺されることがはるかに少なく過ごしやすいと感じました。興味深かったのは北方川沿いで,マラリア抗体価は高いにもかかわらず,貧血の人がいなかったという事実です。村人に聞き取った歴史によれば,彼らは元々内陸に暮らしていて,人口が増えるにつれてまず北方川沿い,次いで南方川沿い,最後に海沿いに進出したということでした。北方川沿いには古くから進出したことで,鉄摂取量がきわめて多く,そのことが貧血を防ぐことと関連していると考えられました。もしそうなら,一種の栄養適応が起きているのだと解釈できます(Nakazawa et al., 1994)。


新しい論文2つ(2020年3月13日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

Kucharski AJ et al. "Early dynamics of transmission and control of COVID-19: a mathematical modelling study."(2020年3月11日掲載)このレベルのシミュレーションでLancet Infectious Diseasesに載るのか。

クロロキンの論文は毎日チェックしているのだが,招待論文でDevaux CA et al. "New insights on the antiviral effects of chloroquine against coronavirus: what to expect for COVID-19?"(2020年3月12日掲載)が,Int J Antimicrobial Agentsに載っていた。後で読もう。


死亡予測因子(2020年3月14日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

世界の先進国がとっている対策の基本線は,日本も含めて同じで,検査については,一昨日説明したように,(1)感染拡大を防ぐため,無症状や軽症の人も含めた積極的疫学調査の対象者の検査,(2)肺炎症状等,診察の結果,医師がCOVID-19の鑑別の必要を認めた患者の検査,をすることが必要十分であり,個人予防としては,手洗い・咳エチケット・風邪様症状があったら外出しないこと・不要不急の旅行やマスギャザリングを避けることは,ほぼ共通している。日本の専門家会議が出した方針も同じである。WHOのテドロス事務総長の昨日のスピーチにもそうあった。

ちなみに,昨日のスピーチでやや目新しかった発言としては,「包括的なアプローチを取らねばならない。検査だけでもなく,接触者追跡だけでもなく,検疫だけでもなく,隔離だけでもなく,そのすべてをするのだ」があった。個別の国については,中国,韓国,シンガポールなどの国は,積極的な検査と接触者追跡と隔離と社会的流動性(の抑制? あるいはimmobilizationと言ったのかも?)を組み合わせれば,感染を防ぎ命を守ることができることを示した,という発言に続き,日本も安倍首相自身に主導される全政府的アプローチが,クラスターの詳細な調査に支えられて,伝播を減らすための重要な一歩になることを示している,と言っているが,内容的にテドロス事務総長が評価しているのは,クラスターの詳細な調査の方であることは明らかだ。全政府的アプローチ云々は実態を知らないのかリップサービスか知らないが。

違いは,例えば以下のような点が挙げられる。

韓国では,MERSの経験があるので検査能力に余力があり,積極的疫学調査の対象者だけでなく不安を感じて検査を希望した人のすべてに対応する検査をしたというプラスアルファによって,より徹底的な押さえ込み対策が可能になり,把握された感染者数が実際の感染者数に近づき,CFRがIFRに近い低値になった(それでも0.6%あり,日本の季節性インフルエンザの30倍程度だが)。たぶんプラスアルファがなくても死者数はほとんど変わらなかったはず。(20200315追記)大事なポイントを見落としていたが,韓国CDCの発表によれば,韓国の感染者は20代が突出して多く,その死者がゼロなので,見かけ上CFRが低くなっているという側面もある。これはたぶん,20代が集団感染するようなクラスターが多かったのだろうと思われる(時空的な内訳がわからないと正確な評価はできないが)。

英国では,首相のスピーチが,Chief Medical OfficerやChief Scientific Advisorからの提言に基づいている。Chief Scientific Advisorというポジションが常設されていること自体素晴らしいが,1995年から2000年の間,その地位にあったのは,理論疫学の大家でRoy Andersonとの共著で名著『Infectious Diseases of Humans』を書いたRobert Mayであった。必要十分な検査をした場合に総感染者数が検査によって確定診断がついた人数の10倍以上いるだろうという見積もりは,武漢のアウトブレイク初期のデータからインペリアルカレッジのFergusonグループ(暫くサイトをチェックしないでいる間に2つの報告が増えていた。第7報[3月9日],第8報[3月11日])が出した第1報でも西浦さんのJCM特集号Editorial第1弾でもわかっていたことで,目新しくはないのだが,政府の方針が科学的合理性に基づいているということが明示されているのがプラスアルファだと思う(スポーツイベント取りやめや休校も検討したが,科学的アドバイスに基づき,現時点では感染拡大防止効果が小さいためしない,休校についてはとくにそうするようアドバイスがでたときのみすべき,と明言している。スポーツイベントも種類や規模によると思うが)。

日本は,専門家会議が立ち上げたクラスター対策班が,クラスター発生に共通する3条件を見つけて,それを避けるように,と呼びかけたのがプラスアルファである。いま効果があったかどうか計算しているところだと思うが,この効果があれば,社会経済活動への介入を最小限にとどめながらRを1未満にできる可能性がある。あと,たぶん手洗いなどの個人防護を真面目にやっている度合いが,他国より高いように思われるのも,プラスアルファだと思う。一方,マイナスとして浮かぶのは,医師が鑑別が必要だと考えても保健所が拒否する事例があることだ。ただ,メディアでは良く報じられるのだが,これがどれくらいあるのかがわからない。以前から医師会が集計して公表したら良いのではないかと書いているが,3月4日までに全国で30件という数字が事実なら,実際以上に拒否事例が多いように感じてしまっている可能性もあるかもしれない(もちろんゼロであるべきだが)。もっと大きなマイナスは,専門家会議に相談せず,首相周辺が思いつきで全国一斉休校を宣言してしまったように,政治がまともに機能していないことだと思う。英国首相のように,科学的アドバイスに基づいた施策をしてくれて,それを明言することで,責任は自分がとることを示してくれるのが,政治家として求められる態度だと思うのだが。

プレプリントサーバに載っている,Wang C et al. "A human monoclonal 1 antibody blocking SARS-CoV-2 infection"(2020年3月12日アップロード)は,SARS-CoVとSARS-CoV-2に共通する抗原エピトープに結合して中和できるモノクローナル抗体を見つけたという論文。

LancetのZhou F et al. "Clinical course and risk factors for mortality of adult inpatients with COVID-19 in Wuhan, China: a retrospective cohort study."(2020年3月11日掲載)は,武漢の2つの病院(他の病院からreferされる)を2020年1月31日までに退院したか死亡した,18歳以上の患者191人(137人は退院,54人は死亡。発症から入院までの平均日数はどちらも11日)についての後向きコホート研究(と書かれているが,退院例と死亡例について,基本属性や臨床所見,治療法,検査データを比較しているので,むしろ症例対照研究と言うべきではないか?)。ロジスティック回帰分析の結果,死亡リスクを上げた要因は,年齢(1歳上がるごとに1.1倍)に加えて,入院時のSOFAスコア(リンク先の論文に書かれているように,臓器障害の程度を示す指標で,敗血症の診断に用いられる)が高いこと(オッズ比5.65,95%CI [2.61, 12.23])とd-dimerが1μg/mLを超えること(0.5μg/mL以下をリファレンスグループとしてオッズ比18.42,95%CI [2.64, 128.55])であった,と書かれている(表3)。これほど高いオッズ比から考えると,これらはかなり,入院時に重症化しやすい人を見つけるのに使える指標といえよう。もう1つの結果として,退院した人たちについては,発症からのウイルス排出期間の中央値が20日(四分位範囲が17-24日)で,最短8日,最長37日だったが,死亡した人たちは亡くなるまでウイルスが検出され続けたとも書かれている。もちろん24時間おいて2回,咽頭スワブからRT-PCRか次世代シークエンサでウイルスが検出されなくなってから退院としているので,退院後の再燃については,この論文では扱われていない。


糞口感染(2020年3月15日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

相変わらずメディアは検査数が増えてないというが,それだと感染数が増えていないだけかもしれないので,何度も書いているように,医師が鑑別の必要を訴えて拒否された例数を都道府県別に集計して報告して欲しい。都道府県医師会が集計してくれる仕組みができれば良いが,マスメディアが本気で取材すればできるだろう。それをせずに公式発表からわかる検査数だけ比べるのは無意味。

若い方は受容できるという「専門家」をよく見るが,発症したら1000人中3人死ぬような感染症が日常的に感染するようなリスクは受容できないと思う。ドイツ,英国,米国の政府は,それを受け入れなければならないかも,ということまで視野に入れはじめたが,日本のクラスター対策班は,まだクラスター対策によってR<1にできる可能性を捨てていない。和歌山県の技監が言っていることのうち,肺炎症状があれば鑑別診断するというのは,たぶん国際的に普通のことだが,濃厚接触がなくても無症状でも病院に出入りした人全員を検査したのは,病院という場をクラスターとみなしたクラスター対策なので,他国はどこもやっていない最先端のはず(20200316追記:twitterでflurryさんから指摘を受けたが,確かに「他国はどこもやっていない」とは限らない。書きすぎた)。和歌山独自という報道がなされているが,クラスター対策班から提案されたのではないかなあ。

Nature Medicineの短報で,Xu Y et al. "Characteristics of pediatric SARS-CoV-2 infection and potential evidence for persistent fecal viral shedding"(2020年3月13日掲載)は,10人のSARS-CoV-2に感染した子供(2ヶ月~15歳)の臨床的特徴をまとめたもの。鼻や喉のスワブからウイルスが検出されなくなってからも,直腸から採取したスワブでは,10人中8人からウイルス検出されたから糞口感染があるだろうという結論は,既に紹介したZhang et al.の論文では成人でも確認されていることなので,小児の特徴と考えてしまっては筋が悪いと思う。ただ,乳幼児の世話をする人は,通常以上に排便処理に気をつけるべきとは言える。

プロゴルフが中止になったり延期になったりしているが,あれこそ,クラブハウスで集まって喋ったりせず,全部屋外で済ませることにして,無観客ならば感染リスクはほぼゼロなのではないか。松山英樹選手が初日首位だった大会など,なぜ中止されたのか,意味がわからない。関係者から感染者が出たのか?

Rによる世界のCOVID-19の地図表示についての記事。

このtweetで知ったが,Broker TR et al. "An Effective Treatment for Coronavirus (COVID-19)"(2020年3月13日)は,ぼくがこれまで引用してきたのと同じようなソース(いくつか知らなかったものもあった)から,クロロキンが予防にも治療にも有望だと主張し,とくに予防に使えるかどうかを早急に調べるべきと結論しているレビュー。やはり早く治験結果が待たれる。


正確な訂正情報の必要性(2020年3月16日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

インペリのFerguson教授のインタビュー動画(2020年3月11日)

いま入居している部屋では,ネット接続とBS視聴のためJ:COMに加入しているのだが,ホーム画面のお知らせを見たら,COVID-19のパンデミックに配慮して,TBSニュースチャンネル,BBC World,CNNj,CCTV大富という4つのニュースチャンネルの視聴を3月一杯無料にしてくれていることに気づいた。これは良いサービス。

Domenico LD et al. "Expected impactof school closureand teleworkto mitigate COVID-19 epidemicin France."(2020年3月13日)SEIRモデルを使って,フランスでの休校と他の緩和策との組み合わせの効果を評価しているのだが,8週間の休校をすればピークを遅らせる効果はあるが,流行地での導入に比べ,あまり流行していない状況での導入の効果は小さいこと,テレワーク導入と組み合わせて導入すると効果が上がること,などを示している。

大著"Coming Plague"(現在Kindle版は729円で買える)の著者がGarrett L "COVID-19: the medium is the message"(2020年3月11日)と題して,LancetにPerspectiveを書いている。パニックや科学や疫学に対する誤解からの防御のための唯一の砦は,素早く,正確で,世界中で利用可能な訂正情報である,と主張していて共感した。そう思ってこのメモをまとめているわけだが。

JAMAから。Sharfstein JM et al. "Diagnostic Testing for the Novel Coronavirus"(2020年3月9日)というViewpointで,米国が当初は検査を曝露がわかっている人に絞っていたが,3月3日にペンス副大統領が「医師が検査を要請したすべての米国人は検査を受けられる」と述べたが,そこには多くの問題が残ると述べている。懸念されている問題は,軽症者が検査を求めることで重症な人に医療サービスがパンクしてしまうのではないかという問題や,2-14日の潜伏期間のうちは検査して陰性でも感染している可能性があることなど,日本で議論されていることと同様である。ドライブスルーでの検査など検査の技術改善は必要かもしれないが,それは手洗いや隔離など他の対策の代替にはならない,とも書いている。当然のことだが。

Scienceに特設ページがあった。Science Translational MedicineのEditorialで,Layne SP et al. "New coronavirus outbreak: Framing questions for pandemic prevention"(2020年3月11日)という文章が載っていた。

Scienceにあったモデル論文で,いろいろなメディアで紹介されているようだが,Chinazzi M et al. "The effect of travel restrictions on the spread of the 2019 novel coronavirus (COVID-19) outbreak"(2020年3月6日)は,渡航制限がCOVID-19アウトブレイクの広がりに与えた影響を議論している原著論文。GLEAMという2009年のパンデミックインフルエンザ流行時に開発された,感染症の空間拡散に対する多状態移動ネットワークのモデル(詳細はBalcan D et al. "Multiscale mobility networks and the spatial spreading of infectious diseases", PNAS, 2009Balcan D et al. "Modeling the spatial spread of infectious diseases: The GLobal Epidemic and Mobility computational model", J Comput Sci, 2010 参照)を用い,分集団ごとのヒト=ヒト感染にはSLIR(という用語になっているが,LはLatentで潜伏期間を示すので,SEIRと同じ)のコンパートメントモデルを仮定している。国際的に報告された感染者数を用いてキャリブレーションし,武漢が封鎖された2020年1月23日までに,ほとんどの中国の都市が既にCOVID-19に感染した旅行者を受け入れていたこと,武漢での旅行検疫は,中国本土での流行の進展を3-5日しか遅らせなかった一方,国際的な規模ではより大きな効果があったことなどを示している。モデルに仮定は多いのだが,これが正しかったら,イタリアでの都市封鎖も正しいことになる。確かに中国は都市封鎖によって,少なくとも一度はエピデミックを抑え込むことに成功した(ように見える)が,問題は,封鎖を解いたときに再流行しないかということだ。永遠に都市封鎖を続けるわけにはいかないのだし。

Lipsitch M, Allen J "Coronavirus reality check: 7 myths about social distancing, busted - Due to the lack of testing availability to date, we don’t know who has coronavirus. So for now, we assume we all might, and maintain social distancing"というOpinionがUSA Todayに載っていた。Social Distancing(社会的に距離を置くこと)についての7つの神話を否定し,COVID-19についての現実はどうなのかをチェックする,という主旨。やはりこうして地道にファクトチェックしていくことは大事だと思う。"Social Distancing"より"Physical Distancing"(物理的に距離を置くこと)の方が良いけれども,もちろん100%物理的に距離を置くのは不可能で,外を散歩したり,子供が外でサッカーのような他人との接触がないゲームをしたり,数人でハイキングに行ったりしたら良いと書いている(私見だが,おそらく,Prof. Lipsitchが西浦さんたちの論文を読んだら,クラスター発生条件が揃うのを避ける活動はOKと判断するのではないかと思う)。咳や鼻水だけではなく,普通に呼吸をしたり喋ったりするだけでも感染するので,手洗い,物の表面の消毒,換気が重要だとも書いている。Social Distancingをしてもすぐに結果がでるわけではないし,1ヶ月かそれ以上続けていったん流行が収まったとしても,軽症な人や世界のどこか他のところで残っている感染者の中でウイルスは存在し続けているので,Social Distancingを緩めたら再流行が起こる可能性があることは歴史が証明している,とも書いている。既に書いたように,何週間かそこら我慢したら緩めて良いというものではなく,根絶するか,治療薬かワクチンが使えるようになるまでは,このような行動制約はずっと続けなくてはいけない。辛い世界だが仕方が無い。

その意味で,フランスのマクロン大統領がしたように15日間の封鎖(15-day lockdown)を宣言するのは(都市封鎖は中国しかできないと思っていたが,欧米でも複数,そこまで踏み込んだ対策を打ち出したのには驚いた),緊急避難的に感染拡大を防ぐには明らかに役に立つが(休校なども,その一環でやるなら意味がある),封鎖を解除したら,ほぼ確実に再流行する。それを繰り返したとして,いろいろな社会システムが破綻せず機能し続けられるのか,また,社会的弱者にしわ寄せが行かないか,ということも考えた上で発令しないと(フランスでは考えられているのだとしても,どの国でもできるわけではない),COVID-19の感染者数を一時的に抑え込めても,他の死因による死者が増えてしまう可能性はある。仮にクラスター対策では抑え込めなかった場合,高い確率で,日本でも封鎖をしなくてはいけない局面が来るかもしれないので,前もって考えておく必要はあるだろう(20200318:誤読されやすい日本語だったので,この文修正しました)。が,現時点の日本で,15日間のlockdownによる抑え込みをする政策が妥当だとは思えないし,それによるマイナスを補償する政策がないままにやってしまったら,生活が立ちゆかなくなる人が大勢出ると思う。


インペリグループ第9報(2020年3月17日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

インペリグループ第9報(2020年3月16日)。筆頭著者がFerguson教授自身になっている,やや長めの論文。基本的に英国の政策はインペリグループの研究結果を踏まえて立てられているので,この論文は影響大きいだろう。Summaryの冒頭から,スペインかぜ以来最も重大な呼吸器系ウイルスによる脅威だ,と書き,人と人の接触を減らしウイルスの伝播を減らすための多くの公衆衛生的な手段(=薬剤以外の介入NPIs)を評価している。ローリー・ギャレットが年齢別のインパクトの表を引用tweetしているが,若い年齢層でのIFRをこれまでの文献より低く評価している一方,高齢者では多くの文献より高い値を示している。結論として,1つだけの介入では,どれも有効性は限られているので,伝播にそれなりの影響を与えるためには,複数の介入を組み合わせる必要があるとしている。

以下20200318追記。なお,Ferguson教授のtwitterに咳が続き熱も出てきたと書かれていて大変心配)この研究の大事なポイントはNPIsの2つのアプローチを明示的に分けて評価した点だと思うので,その考え方がはっきり書かれているイントロだけ抄訳しておく。

2020年3月16日時点で,COVID-19のパンデミックは大きな地球規模の健康への脅威となり,世界で164,837人の感染者数と6,470人の死亡数が確認されていて,少なくとも1人の患者が確認されている国は146ヶ国と急速に拡大中である。これに匹敵する新興感染症の流行はスペインかぜで,当時ワクチンはなかったので,米国を含むいくつかの国は,一般集団における接触率を減らすことによって伝播速度を下げることを意図した,薬剤以外の多様な介入方法で対応し,早期に介入を導入した都市では症例数を減らすことに成功し,介入し続けている限り死亡率も低く保てたが,介入を止めると伝播は再び活発になった。現在の我々の感染症や予防の理解はスペインかぜ当時とはまったく違うが,世界の国々を見渡せば,スペインかぜと同じ問題に直面している国もある。NPIsとしては,2つの基本戦略が取れる。

(a)抑え込み(suppression)。再生産数を減らすことが目的。Rを1未満にすればSARSやエボラのようにヒトからヒトへの伝播を低いレベルになり,感染者数が減る。このアプローチの問題は,NPIs(使えるとすれば治療薬も)が,ウイルスがヒトの集団の中を循環しているうちは,あるいはワクチンが使えるようになるまでは,維持されねばならない(少なくとも間欠的には)ことである。COVID-19の場合,ワクチンが使えるようになるまでには,少なくとも12-18ヶ月かかる。また,できたばかりのワクチンが高い効果をもつ保証はない。
(b)緩和方策(mitigation)。この場合,NPIs(もし使えるならワクチンや薬剤も)の目的は,伝播を完全に邪魔することではなく,流行の健康影響を減らすことである。1918年のスペインかぜの時に米国のいくつかの都市で適用され,1957, 1968, 2009年のインフルエンザパンデミックの時,より広く世界で適用された方法である。例えば,2009年のパンデミックの時,ワクチンの早期供給は重症化しやすい基礎疾患がある人を対象としていた。このシナリオでは流行を通してある程度集団免疫がついた時点で,急速に患者数と伝播が低い水準に落ちる。

これらの戦略はRを1未満にして患者数を減らすことを目指すか,Rを減らすが1未満ではなく,たんに感染の広がりを遅くすることを目指すかが違っている。

この報告では,COVID-19への戦略として,これら2つの実現可能性と意味するところを考え,広い範囲のNPIsを想定する。SARS-CoV-2は新興感染症なので,まだその伝播について理解すべきことが多く残っている点には注意すべきである。加えて,NPIsの多くの影響は,いかに人々がその導入に反応するかに掛かっていて,それは,国によっても,コミュニティによってさえ違う。加えて,政府の強制介入がなくても,人々が突然行動を大きく変えることは,きわめてありそうなことである。

ここでは倫理や経済的な側面は考えない。抑え込みは,中国や韓国で今のところ成功しているが,莫大な社会的・経済的なコストが掛かり,そのこと自体が,短期的または長期的に健康とウェルビーイングに重大な影響を与える。緩和方策は重症化や死亡からそのリスクにある人々を完全に守ることはできないし,死亡率は高いままになるかもしれない。実現可能性とヘルスケアシステムへの影響に焦点を当てる。英国(注:この論文ではGBと書かれているので,北アイルランドを含まないことを強調したいのか?)と米国という2つの異なるヘルスケアシステムをもつ国についての結果を提示するが,多くの高所得国に適用可能だろう。

方法は,伝播モデルはパンデミックインフルエンザ用に開発された個人ベースシミュレーションを改変し,細かい人口密度データを使って(年齢と世帯規模の分布はセンサスデータによる)地域ごとの個人が,世帯内,学校内,職場内,コミュニティ内で接触する過程をシミュレートしている。学級サイズと生徒/教員比を使って地域の人口密度に比例したサイズの学校人口を生成し,職場の人口規模の分布データと通勤距離データから職場人口を生成している。S(感受性者)とI(感染者)の接触を通して感染イベントが起こり,コミュニティ内の感染は接触者間の距離に依存してランダムに起こり,学校内での接触確率は,これまでのインフルエンザパンデミックで観察された子供同士の感染率に合わせるため,それ以外の2倍に設定している(注:ここの設定にはかなり疑問がある。ほぼランダムリンクで接触確率に応じて感染が起こるインフルエンザとは,COVID-19の感染の特性は大きく違い,感染が起こるかどうかは接触の環境条件に依存するので,インフルエンザのモデルを流用することは妥当性を欠く。このモデルによるシミュレーションの結果は,子供の影響を過大評価しすぎているし,クラスターの連鎖による感染拡大という特徴をまったく考慮していないことからRの過分散も扱えておらず,あまり信頼できない。Ferguson教授とは思えないミスだと思うが,まったくその点に触れていないので,もしかすると知らないのかも)。感染のほぼ1/3は家庭内で,1/3は学校と職場で,残り1/3はコミュニティで起こると仮定した。先行研究から,潜伏期間は5.1日,感染力のある期間は,発症する人では発症12時間前から,無症状の人では感染後4.6日から始まり,そこからずっと続くことから,平均世代時間6.5日という結果になると仮定している。武漢の初期の感染者増加率に基づいて,R0は2.4とし(ただし2.0-2.6の範囲を調べた),症状がある人はない人より50%高い感染力をもつが,個人の感染力は平均1,シェイプパラメータα=0.25のガンマ分布に従うとした。回復後の人は免疫がつき,短期間では再感染しないと仮定した(Flu Watchのコホート研究から考えて,同じ系統のコロナウイルスが,同じシーズンや翌シーズンに再感染することはまずないだろうから)。1月上旬からの各国での感染は指数増加(倍加時間5日)をベースにして,英国と米国で2020年3月14日までに見られた累積死亡数を再現するような流行状況に調整した。表1に,中国のデータに基づき,肺炎一般の入院データなども考慮して,この論文で用いた,年齢層別に入院が必要な有症状者の割合,集中治療(人工呼吸器かECMO)が必要な入院者の割合,感染致命比を示す(注:この表は推定値であり,年齢層別しないIFRの推定値を0.9%としているので,西浦さんたちの0.3-0.6%よりだいぶ高い)。NPIsの介入シナリオとしては表2に示す5つとその組み合わせを考えている。CI(自宅隔離:有症状なら7日間自宅にいて,家庭外の接触を75%減らすとし,70%の世帯がこの政策に従う),HQ(自宅検疫:1人有症状者が出たら世帯全員が14日間自宅にいて,世帯内接触は倍増するがコミュニティでの接触は75%減り,半数の世帯がこの政策に従う),SDO(70歳以上が社会的に距離を置く:70歳以上の人は職場の接触を半減させ,代わりに世帯内の接触は25%増え,コミュニティでの接触は75%減るとし,75%がこの政策に従う),SD(全人口が社会的に距離を置く:全世帯がコミュニティでの接触を75%減らし,学校での接触は変わらず,職場での接触は25%減り,世帯内接触は25%増える),PC(学校閉鎖:小中高はすべて閉鎖,大学は25%のみ開校,学生の家族との接触は50%増え,コミュニティでの接触は25%増える)の5つ(注:本文にはマスギャザリングの停止も書かれているが,表には入っていない)。CIとHQは発症がトリガーとなり翌日実施されるとする。他のシナリオは集中治療を必要とする重症者数をトリガーとして政府の決定により始まるとする。緩和策の場合は3ヶ月,抑え込み策の場合は5ヶ月かそれ以上続けるとした。

結果は,(ありそうにないが)まったく何の介入もしない場合は,図1(縦軸は人口当たりの死亡率であることに注意)に示されている通り,英国と米国の81%が感染し,両国とも死亡率のピークは6月頃で,英国では51万人,米国では220万人が死亡するとなった。英国における6月のピーク時に必要な集中治療ベッド数は人口10万当たり280程度となった。

緩和策の場合,英国でのシミュレーション結果は,図2に示すようにPCでは僅かに死亡率のピークが下がり先に伸び,CIはもう少し大きくピークが下がり,CIとHQを組み合わせるとピークの高さは何も対策しない場合の半分くらいになり,CIとHQとSDOを組み合わせるとピーク死亡率が人口10万当たり100未満になり,7月初め頃になった。いずれの場合でも,ピーク時には重篤な患者を治療するためのベッド数のキャパを大きく超える。結果は図には載せていないが,マスギャザリングイベントの禁止はほとんど効果がなかった。そういうイベントでの接触時間は,家庭,学校,職場,バーやレストランといった他のコミュニティにおける接触時間に比べて,相対的に短いから(注:これも,感染確率が接触時間に比例するというモデルの仮定に依存していて,たとえ2時間でも連続して集団感染が起こりやすい条件を備えた場にいたら感染確率が飛躍的に上がる,という可能性をまったく無視している点が,この研究の欠点であり限界)。

表3は,英国での3ヶ月の緩和策の効果を予測したもので,R0が2.4の場合と2.2の場合で,累積重症者が何例になったときに政策発動するのか4段階で,どれくらいピーク時必要病床数と総死亡数を減らせるのかを示しているが,PCだけでは死亡数削減効果はほとんどないのが目立つ(注:こんなに学校での感染を重く見たモデルでも,学校閉鎖の効果がほとんど出ないのは注目すべきである。安倍首相が打ち出した全国一斉休校がどれほど馬鹿げた愚策であるかわかるだろう)。総死亡数を半減させるには,CIとHQとSDOの組み合わせが必要となっている。

英国での抑え込み策の結果は図3に示されていて,2020年3月末から5ヶ月介入した場合,CIとHQとSDの組み合わせで(6月から9月にもわずかに病床数を超えてしまうが)ピークを12月に先送りでき,ピークにおける必要集中治療病床数も人口10万当たり120程度に抑えられるが,SCとCIとSDの組み合わせでは,同じく12月まで先送りできるが,子供や学生に免疫がつかないため,ピークにおける必要集中治療病床数は人口10万当たり300近くなる。

英国の抑え込み策の発動をSCとSDについて順応的にして(他の策はずっと発動し続ける),ICU症例100をオン,50をオフのトリガーにした場合,図4に示すように,5月の最初のピークのみ週1200程度のICU症例が出るが,以後は3ヶ月おきくらいに週400以下の小さなピークが来るがICU症例の爆発的増加を抑えられることが示されている。オンのトリガーをいくつにするかは結果に影響する(表5に示す)が,オフのトリガーはあまり影響なかった。以上の結果から,医療崩壊を起こさないためには複数の抑え込み戦略の順応的適用が必要であることが示唆された,というのがこの論文の主旨である。中国のように社会全体で徹底的にSDをやればRを1未満にできて抑え込めることはわかっているが,その場合,感染しないままに残る人が多いためリバウンドの可能性があるので,最近抑え込み策を緩めた中国での流行状況がどうなるかをモニターし,来週以降どうなるかを見なくてはいけない,という主旨のことも書かれていて,そこはその通りと思った。PCは緩和策より抑え込み策で使う方が有効だが,PCだけでは緩和にも不十分,とも書かれている(注:定性的には当たり前だし,この研究は伝播モデルがインフルエンザと同じだから,抑え込みで有効かどうかについても信頼性は疑問。ただ,季節性インフルエンザでは免疫レベルが高い大人よりも,免疫レベルが低い子供が伝播の主役となることと対照的,と書かれている点は注目してほしい)。多くの国では長期間の抑え込み策は実現可能性が高い政策ではないので,3ヶ月程度の緩和策を順応的に適用していく方が良い,と提言している。

それなりによく考えられた研究だし,英国政府がこれを参考にして長期緩和策を打ち出したのは合理的政策決定だとは思うが,日本はクラスター対策によってR<1にできる可能性を追求しているところなので,ほとんど参考にならない。

あの大富豪Elon MuskがtweetでクロロキンがCOVID-19に有望という,ぼくも一昨日触れたBroker TR et al. "An Effective Treatment for Coronavirus (COVID-19)"(2020年3月13日)に触れていた。Brisbaneの医師がオーストラリアで大規模な治験を計画していて資金を求めているから(7newsの記事The Chronicleの記事),出してあげればいいのではないか。

KaggleでCOVID-19 Open Research Dataset Challenge (CORD-19): An AI challenge with AI2, CZI, MSR, Georgetown, NIH & The White Houseという試み。29000のCOVID-19またはSARS-CoV-2の学術文献(うち13000はフルテキスト)をオープンな研究データセットとして使えるようにした(CORD-19。2 GBあるがリンク先からダウンロードできる)ので,AIを使ってテキストマイニングやデータマイニングをするツールの開発を募る,というもの。

Scienceに載っていた原著論文Li R et al. "Substantial undocumented infection facilitates the rapid dissemination of novel coronavirus (SARS-CoV2)"(2020年3月16日掲載)は,中国国内の感染データ,移動データを使って,1月23日に渡航制限がなされるより前の全ての感染の86%(95%CI: 82-90%)は報告されていないと推定し,未報告例の一人当たり感染確率は報告された感染の55%で,数が多いので,報告された感染者の79%の感染源は未報告例だったと推定している。SEIモデルでIに報告された事例と未報告事例の2つのコンパートメントを想定しているが,R0の過分散を考えていないモデルなので現実的に意味があるのかは判断保留。

不顕性感染者の比について,西浦さんたちもIJIDにLetter to the Editor(にしては長い),Nishiura H et al. "Estimation of the asymptomatic ratio of novel coronavirus infections (COVID-19)."(2020年3月14日掲載)を発表していた。


拒否事例数がわかった(2020年3月18日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

ふとテレビをつけたら喋っていた西村博之さんの感覚が当然だと思う。今夏オリンピックなどできるわけがない(何度も書いている通り)。後藤医師,かなりいろいろな点で正しいことを言うコメンテータだと思うが,この点だけは忖度するんだな。オリンピックにまつわる闇の深さがうかがわれる。

高山先生が1週間,再び厚労省詰めになるとFBに書かれていた。沖縄はとりあえず新規感染者が出ていないから? 厚労省は今度こそ下働きではなく,専門家会議レベルで高山先生の見識と判断を生かして欲しい。

このtweetから始まるスレッドは,Nextrainに載っているゲノム疫学の成果の新しい知見を紹介している。もう何十年も前に日沼さんたちがATLVで始めた研究に端を発した(日沼頼夫『新ウイルス物語』中公新書参照……って絶版なのか),ウイルスの分子系統樹による拡散経路の推定という手法が,リアルタイムで使われるようになったということだ。もちろんATLVとSARS-CoV-2では伝播様式も変異のしやすさも違うので,推定される系統樹がもつ意味も違うが。

Lancetに載っていたPung R et al. "Investigation of three clusters of COVID-19 in Singapore: implications for surveillance and response measures"(2020年3月16日掲載)は,シンガポールの3つのクラスター調査からの,サーベイランスと対策方法への示唆,というタイトル。とくに目新しくは感じないが,日本のクラスターのデータ(ただ,厚労省が公開しているクラスターマップが3月17日までの時点で報告されているものをすべて含んでいると考えると,クラスター対策班がプレプリントサーバにアップロードしている論文では東京4つ,石川もあったはずなのに,東京が屋形船しか載っていないのが解せないが……地図が不正確なのだろう,たぶん)と比較してみると良いかも。

発症間隔が4-5日だとして,北海道のCOVID-19感染動向の陽性患者数のグラフの日別を見ると,2月22日と2月27日,3月7日と3月12日にピークがあるように見えるのは一見不思議だが,これは確定診断がついた日ベースなので,せめて発症日ベースでないと流行状況がわからないな(潜伏期間が2週間あるとして,12日以降の発症が減っていれば,ある程度効果があったと考えられる)。道庁のサイトには発症日の情報もあるが,一覧になっていないので,すぐには流行曲線が描けない。クラスター対策の効果があったかどうか,明日には専門家会議から何らかの発表があるはずなので,待てば良いのだろうが。

Dowd JB et al. "Demographic science aids in understanding the spread and fatality rates of COVID-19 "(2020年3月14日掲載)は,プレプリントサーバらしいが,人口の年齢構造が異なる複数の国で予測される死亡数を比較することでCOVID-19がもたらすインパクトの国際比較をしようという論文。

以前から医師会が集計してくれたら,と何度か書いていた,医師が検査を依頼しても拒否された事例数が集計されたというNHKのニュース。20日間で290件とのこと。これをゼロにするのを検査体制の整備目標とすべきと思うし,290人の治療方針を立てる根拠が得られなかったと考えたら,医療システムとしては酷い話だが,感染者数推定を大きく歪めるほどの拒否数ではない(ちょうど同時期の検査数の正確な数字はわからないが,週1000件として,3000件程度は検査していると思われるので)。奥村さんのtweetに示されている新規発症者数の減少傾向は,クラスター発生予防のための3条件を満たす場所に行かないということまで含めた,クラスター対策の成果がある程度出たと見て良いのではないだろうか。インペリグループ第9報が示唆する通り,ワクチンか治療薬ができるまで,対策を緩めるわけにはいかないし,海外からの感染者の流入への対策が必要になるが。


年齢別無症状割合が知りたい(2020年3月19日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

年齢層別した不顕性感染者と発症する人の比が知りたいが,かなり大きなサンプルで血清疫学的調査をしないと難しいか。不顕性感染の人もかなり捕捉していると考えられる韓国のデータから推定したら良いのか? それって論文になっていないかなあ。

教員会議と教授会で4月からの講義日程について延期の必要はないことを強く主張したため(遠隔講義を進めることと合わせて),長い時間が掛かった。もちろん,クラスターが発生しやすい条件を避ける必要はあるので,生協食堂は使わせない方向しかなかろう。医学部では,そんなことより,実習(とくに病院実習等,クラスター発生条件を備えたところでの学外実習)をどうしたら良いかが大きな問題のはず。ライブハウスや屋形船やパブなどが,どうしたらクラスター発生条件を満たさない形で営業していけるのかという問題と同じで,当事者間で真面目に対策を考えないと。COVID-19対策が長期戦になることは,ほぼ確実なのだから。

何日か前に感染状況の把握ならば血清疫学を,と書いたが,Amanat F et al. "A serological assay to detect SARS-CoV-2 seroconversion in humans"(2020年3月18日)がプレプリントサーバに載っていた。血清抗体検出のためのELISA開発。発症後3日から検出でき,抗体陽性になるという。USA,フィンランド,オーストリアなどの研究者の共著。既にイムノクロマトを使った市販RDTキットもあるが,それなりに高価なので大きなサンプルには使いにくかった。仮に信頼性が十分あることが確認できて,これが安く広く使えるようになれば,血清疫学研究で市中感染頻度を推定できるようになるかも。たぶん同じ目的のELISAキット開発を長崎大学熱研グループも目指しているが,これで十分なら,独自開発に拘るよりも世界で共有させて貰う方が良いと思う。

日本感染症学会が会員に呼びかけた,医療機関におけるクラスター情報提供のお願い(2020年3月16日)。押谷先生からの依頼とのこと。

大阪と兵庫の間の移動制限は,クラスター対策班から出た話なのか,政治家か官僚の思いつきなのか,専門家会議の誰かから出た話なのかが不明だが,もし西浦さんのこのtweetと関係あるなら,数理モデルの解析結果による根拠があるはず。それにしても大阪府知事や大阪市長の発表だと,封鎖したいのかクラスターの連鎖を止めたいのかがわからないのだが。前者はこれまでのスタンスからしてないはずだし(大阪と兵庫で発表の数倍以上の集団感染が同時に起こっているなら別だが),後者なら,黙って目的地まで行き,クラスターが発生しやすい3条件に当てはまらない用事を済ませ,また黙って帰ってくる,例えば通勤や通学は問題ないはず(ただ,明日から三連休なので,通勤や通学をする人は少数だろうが)。とりあえず専門家会議の発表待ちだな。


専門家会議の3月19日状況分析・提言(2020年3月20日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

深夜,途中からだがネット中継で専門家会議の記者会見を見ていたら(リリース「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(3月19日)」本文;数日前に専門家会議から厚労省に出されていた輸入症例の増加が見込まれることから検疫体制を強化して欲しいという要望),大阪と兵庫への移動制限の件,専門家会議は知らないということだった。その後,大阪府知事から出てきた話では,大阪と兵庫でR>1になっていて,リンクが追えない例もあり,放っておくと1週間で4倍増するという数値予測を貰ったということだったので,理論疫学的な根拠があることがわかった。ということは,クラスター対策班の誰かが計算した結果を見て大阪が決断したという経緯なのだろう(兵庫県知事は何も聞いていないと言っていたことから考えると,何か正式に提案する予定があったとしても,それがされる前に先走ったということではないかと思われる)。会見で西浦さんが,北海道の場合も,知事の緊急事態宣言における外出自粛要請から,後に解析結果に基づいたクラスターが発生しやすい3条件が揃う場所を避けて欲しいという詳しい説明をしに行って理解して貰ったという話をしていたので,たぶんそれと同じ感じなのだろう(最初から正確な条件を知事から発表して貰うわけにはいかなかったのか,という記者からの質問に対する返答としてこの経緯を説明していたので,ケースバイケースになるということなのだろう)。あまり憶測を書いても良くないと思うが,結果的に,前回の週末前の北海道の外出自粛要請によって,クラスターの連鎖を防ぐことができたのと同様,今回も大阪と兵庫で大雑把に「3連休中の往来自粛要請」をすることで,市中感染者からの見えない感染がつながって同時多発的な感染者増加が起こること(これはたぶん,スーパースプレッディングイベントによるクラスター発生とは異なる。2日か3日ごとに,ある程度広い範囲で感染者が倍増していくような状況「オーバーシュート」が起こる構成要素の一つと考えられる。もしかすると,それが起こる条件がまだ良くわかっていないのかもしれない)が防げれば,それで良いということかもしれない。

発症間隔が5日程度なのに,2日か3日ごとに倍増という状況が意味するところは,複数の感染ネットワークが同時多発しているということだ。おそらく,3条件によるクラスター発生,マスギャザリングによるメガクラスター発生,リンクが追えない市中感染者からのR>1な感染の同時多発という3つのどれか,あるいは複数の組み合わせによって,感染者数の爆発的増加が制御不能になって医療的対処能力の上限を超えてしまった状態を「オーバーシュート」と呼ぶことにしたのだと思う。感染症疫学で確立した定義がある用語というわけではない(追記:Sakino Takahashiさんからの指摘からのスレッドで,保全生態学での個体数増加が土地の人口支持力を超える状況,もう少し遡るとマルサスが人口増加が資源増加を上回ることを指して使っていたらしいことに気づき,さらに,川端君がDiekmann and Heesterbeekの理論疫学のテキストでも使われていると指摘してくれた。うーん,この言葉に対してinsensitive過ぎたのかもしれないが,記憶になかった。ただ,Diekmann and Heesterbeekを確認したところ,人口規模とアウトブレイク後に残っている感受性の人の割合(感染しなかった人の割合)の関係式で,人口規模が大きいほどR0が大きくなり,この割合が小さくなることが"overshoot phenomenon"である、と書かれていて、若干意味が違いそうだった……適切な用語設定は難しい)。

専門家会議の分析・提言は,リンクした本文をちゃんと読めば良いと思うが,ざっくりまとめると,現状何とかもちこたえていること,北海道でのクラスター対策に一定の成果があったこと,オーバーシュートを防ぐことの重要性,地域ごとの感染状況(Rtの値,新規発生者数の変化傾向,リンクの追えない感染者数の変化傾向により総合的に判断する)に応じた対応をすべきこと,クラスター発生防止のための一人一人の協力の必要性(どこまでの行動変容や社会的規制なら持続可能なのか一緒に考えて欲しいと,西浦さんは何度も言われていたが,その点こそマスメディアがやるべき役割だろう)が要点だったと思う。オーバーシュートを除けば,概ね思っていた通りだった。オーバーシュートの危険が強調されていたのは,武漢だけでなく,欧米でもオーバーシュートが起こったのが,それだけ衝撃的だったということだろう。あと,マスギャザリングイベントについては専門家の間でも意見が割れているそうだ。現在の世界の状況では,国際的に人が集まるイベントをやったらオーバーシュートの引き金になる可能性は非常に高いので,オリンピックは止めろと言いたいに違いないのだが,それを明言しなかった(専門家会議では議題に出ていないとのこと)のは,相当強い圧力が掛かってでもいるのか?

それにしても,西浦さんが相当お疲れのようで心配になった(逆に,ああいう場面での尾身先生の強さには恐れ入った)。クラスター対策班や保健所,地方衛生研,臨床医療従事者といった最前線の方々のsustainabilityも考えていかないと(専門家会議の分析・提言にも滲み出ていたが)。それは医療行政の仕事で,官僚の皆さんはそういう面をバックアップして欲しいところだが,急に充実させられるものでもないような気がするし,難しいところか。英国でやっているように,定年退職後の方を緊急再雇用するとかいったことは,日本はやっていないのだろうか。

尾辻かな子議員のtweetで,第9回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議から,大阪・兵庫にクラスター対策班が西浦さんの名前で提案した資料(Word形式)がリンクされていることを知った。とすると,やはり西浦さん本人からの提案だったのか(追記:このtweetによると,西浦さんの提案先はクラスター対策班であり,大阪・兵庫への提案という書類ではないらしい)。大阪,兵庫内外の3週間の往来自粛要請は,クラスターの連鎖を分断するための第1段階としての提案と書かれていたのは,少し意外だった(しかし大阪・兵庫間の往来自粛要請ではないし,3日間でもなかったので,そこは大阪府知事の勇み足なのではなかろうか)。クラスターではない同時多発的な市中発生からの感染を抑制するためではなかったようだ。深夜に書いたことは深読みしすぎだったかもしれない。

さてしかし,大阪と兵庫がこの状況だと,ある程度のsocial distancingはしなくてはなるまいな。昨日の教員会議で主張した通り,4月20日になっても状況が好転していると期待できる根拠はないので,むしろ講義日程は予定通りにしておいて遠隔講義を進める方が良いと思うし,休校するなら全体的なsocial distancingの一環としてやらないと意味がないが。


Scienceの記事(2020年3月21日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

感染状況を把握するには血清疫学が有効なはずと何度か書いたが,Scienceにも似たような趣旨の記事が出た。

やはり首相の全国一斉休校要請は悪影響の方が大きかったと思う。科学的根拠がないのにそれによって危機感を高めた人たちは,「休校要請を延長しない」と政治家から発表されるだけで危機感を失ってしまうわけだ。クラスターが発生しやすい3条件が揃うのを避けるとか,手洗いなどの個人防護とか,風邪様症状があったら外出しないといった行動は,COVID-19が世界中で終息するまでずっと続けなくてはいけない のに,それまで止めてしまう人が出たり,止めて良いという雰囲気が広まったりするのはまずい。専門家会議の発表は,何とかもちこたえているものの全然安心できる状況ではなく,いつどこで「オーバーシュート」が起こっても不思議はないし,現場には人手が足りないし,持続可能な対処法を一緒に考えて欲しい,という内容だったのに。

日曜夜に放送されたNHKスペシャル『“パンデミック”との闘い~感染拡大は封じ込められるか~』は会話でも飛んで空中を漂い続けるマイクロ飛沫が換気で消える可視化が良かった。専門家会議の押谷先生が直接語られたのも良かったと思う。番組最後の方の押谷先生の言葉で一瞬あれっと思ったところがあったが,何だったか忘れてしまった(20200325追記:思い出したので書いておくと,インフルエンザと違ってクラスターが発生しやすい条件が存在し,それが3つの密が重なる場であるのならば,マイクロ飛沫による感染がクラスターにおける感染の主役ではないかと自然に思ってしまうので,押谷先生が,COVID-19でもやはり主に接触感染と飛沫感染で伝播し,マイクロ飛沫の寄与はメインでないと思うというような主旨の発言をされたのに違和感があった)。

トランプ大統領がクロロキンへの期待を表明したことで,自己治療を試みたアリゾナ州の男性が急変し死亡したという報道が流れている。水槽のタンクの掃除用のクロロキンを飲んだという情報もあり,グレードが医薬品でなかったせいかもしれない。しかし,米国ではRA治療のため使われてきたのが不足して困っているという情報もあり,トランプ発言の影響は大きかったようだ。多くの国で臨床試験は試みられているし,中国発のいくつかの論文では暫定的に投与量なども示されているし,抗マラリア薬としてマラリア流行国では普通に薬局で誰でも買えることから考えても比較的安全で,まだ有望な治療薬候補の1つであるには違いないが,軽い気持ちで自己治療に使ってはいけない。

大学の新学期講義についての文科省からの通知が出た。(2)として,遠隔講義でレポート評価でも単位認定できると明記されていた。あとは学生がネット接続するための料金と(リモートワークなども推奨しているわけだから,いっそ通信料は全部公費助成することまで考えても良いかもしれない),Zoomや類似サービス,あるいは大学独自でホストした場合,本格的に全ての大学で遠隔講義をした場合,トラフィックが多くなっても耐えられるようなインフラ強化が必要かも。

厚労省がテレワーク総合ポータルサイトを開設していた。水際対策の抜本的強化に対するQ & Aというページもできていた。トビタテとか言って海外留学を勧めていたのに,不可抗力で危険地域指定された学生に対して各種奨学金を打ち切って帰国させるというハシゴの外し方は酷いし(木村幹先生がtweetしているように「棄民政策」だと思う),帰国させておいて,空港から自宅に帰るまで公共交通機関を使うなというのは無理があると思う。換気を良くして黙っていて何にも触らないことを徹底するという条件で,入管でマスクでも渡した上で,電車やバスを使うことは許可した方が良いのではないか。そうでなかったら,空港近くに2週間待機できる宿泊施設を作ってあげるかだな。社会防衛としてやることだから公費負担は当然。


3つのシナリオ(2020年3月25日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

オリンピック・パラリンピックを来夏へ延期という話だが,日本も含めて各国何度かのロックダウンを伴うパンデミックになった場合,終息まで1年半はかかるだろうから無理だし,もっと小規模で抑え込めた場合は感受性の人が多く残っているはずだから,世界規模のマスギャザリングイベントをやったら再流行すると考えられるのでやらない方が良いし,等々考えると,最短でも2年後の秋だろう(熱中症のリスクを考えたら日本の夏にオリンピックをするのは元々反対だし,東京みたいな環境が悪いところに招致するのが元々間違っているというのがぼくの持論だが,それとは関係なく普通に考えても)。それでまた2024年にパリでやるのも無理があるので,もはやtokyo2020は中止した方が良いと思う。

岸田直樹先生がtweetで薦めていたこの動画,たしかにわかりやすい。重症化メカニズムで免疫系が非感染細胞まで攻撃するとされていたが,そこは確立しているのか少し気になった。あと,social distancingの例として,「ハグしない」,「握手しない」という行動が示されていたが,日本では元々あまりされない行動なので(学生の頃読んだエドワード・ホールの『隠れた次元』を思い出す),もしかすると日本でのRが小さかったことと関連あるかも。実は3つの密を避けることもsocial distancingの1つなのだが(諸外国はまだ3つの密という形ではフォーカスしていないが),もしかすると,それって世の中に知られていないのか?

クラスター対策という戦略に対して社会学系? の方々が反発しているのは何故なのだろう。一般の人々がどの程度のことなら持続可能か知りたかったらまっとうな社会調査をしたら良いなどということは,リスコミのプロが入っている専門家会議ならば百も承知の上で,時間がないからネットメディアで問いかける形でのアクションをしたのだろう。それをわかった上でなお反発するのだとしたら,何故なのだろう。政府にいろいろ提言しても,それを受け止めた正しいアクションを取らず,金も出さず,スタッフ強化も図らず(日本の数倍の規模の専門家集団からの提言に全面的に依拠したということを明示しながら政策を打ち出す英国政府とは対照的),政権の支持率を上げることだけ考えた受けの良い政策ばかり政府がしてしまうのを,専門家会議の責任だと言って攻撃するのはフェアじゃないと思う。いまの専門家会議とクラスター対策班が止めてしまったら,状況がさらに悪化するのは目に見えているので,政府が提言を受け止めてくれないからと言って,じゃあ止めますというのは,まっとうな責任感があるプロならばできないだろう。自分も含めて外野がやるべきことは,専門家会議への攻撃ではなくて,首相近辺に対して,勝手なことをせず,専門家会議に余計な圧力を掛けず(たぶんオリンピックについては議論するなと言われているのだと思う。憶測だが),もっと専門家会議の提言を尊重するように言うことではないのか。

シンガポールのように完全にリンクを追い続けて隔離と対処療法で救命という戦略を徹底することは,COVID-19が無症状や軽症でも感染力をもつという特性を考えたら,他の国では現実的でないと思う。国土が広く人口規模が大きいほど人の行動はコントロールしにくいし,人の記憶は完全ではないし,法律その他の行政的施策に従わない人は少なくない。そう考えると,今後のCOVID-19の推移には,大雑把に言って,3つのシナリオがありうると思う。

1つ目はとくに対処せず放っておくこと。おそらく低所得国の中には,水道の供給もなく,CTも人工呼吸器もECMOもなく,ほとんど対処できない国もある。西アフリカでエボラウイルス感染症がアウトブレイクしたときに対処が難しい理由と同様に,文化的理由でsocial distancingすら困難な国もある。そういう国や地域では,人口の40-80%が感染し(専門家会議やインペリグループ第9報が80%を採用しているのは,単純なモデルで感受性のまま残る割合が20%という推定だと思われるが,2月15日の時点で,ハーバードSPHのLipsitch教授は,人のmixtureがそう単純ではないので40-70%と推定している),そのうち0.3%が亡くなるので,控えめにみても,1000人に1人が今年COVID-19で亡くなることになる。重症者への対処療法が十分にできないので,悪くするとその10倍くらい亡くなるかもしれない。ある程度人口規模が大きければ,流行曲線がゼロ近くに収束しても完全にゼロにはならず,エンデミックな病となるだろう。十分に医療的対処できても,日本の人口で考えたら約12万人が亡くなることになるので,日本を含む高所得国ではこの戦略は取れない。

2つ目は医療的対処能力の上限を超えるような爆発的感染者急増である「オーバーシュート」が起こりそうになったら都市機能を停止するロックダウンを1~3ヶ月発動し,新規感染者がある程度減ったら都市機能を再開する,ということを,ワクチンか治療薬が開発されるまで数回繰り返すこと。1つ目の戦略に比べると,未感染のまま生き残る人が多くなるため,ワクチンか治療薬が開発されるまで1年半から2年は続けなくてはいけない。武漢でロックダウンの有効性が示されたので,フランスや米国のいくつかの州など,現状この戦略をとっている国はいくつかある。しかし高所得国の都市部は,食糧生産に携わっていない人が多いので,地方から食糧が運び込まれないと飢えてしまう。ロックダウン中の所得補償もされないと,やはり飢えてしまう。ライフラインの維持に関わる職種の人は活動停止できないし(その人たちが職場に移動するための交通手段はどうするのかも考えなくてはいけない),その子供や高齢の親などの世話を誰がするのかということも問題になる。そうした形でかなりの社会的負荷を強いるロックダウンを,数回繰り返すことができるのかというと,たぶん無理だと思う。しかも,止めた途端に第1のシナリオと同じく,十分な割合の人が免疫を獲得するまでの蔓延が起こることになるので,医療的対処を必要とする人のピークは,第1のシナリオより高くなる可能性もある(インペリグループ第9報の1回抑え込み戦略のシミュレーション結果が示している)。仮に3週間なら耐えられても,3ヶ月耐えられるだろうか。そこまで考える必要がある(もっと極端な形として,ほぼ完全に鎖国してしまい,5ヶ月程度のロックダウンにより国内のCOVID-19を完全に終息させ,その後も一人でも感染者がいる可能性がある国との往来は完全に絶つということも,思考実験としては可能だが,実際問題として無理だろう)。

このどちらも受け入れがたいと考え,手探りながらも第3の戦略としてのクラスター対策が何とか奏功しているように見えるのが,日本で専門家会議とクラスター対策班が進めてきた現状である。クラスター対策に加えて,対人距離が元々遠く,蛇口を捻れば安価で清潔な水が使え,子供でも食事の前には手を洗いましょうという衛生教育ができていた日本ではR0が低めだったこともあって,今のところ持ちこたえることができている。これもワクチンか治療薬が開発されるまで,1年半から2年は続けなくてはいけない。止めたら蔓延して第1のシナリオと同じになってしまう。今後感染した帰国者・入国者が増えると,クラスター対策だけでは対処しきれなくなるので,どこまで持続可能な対処を強化できるか皆に考えて欲しい,というのが,先日の西浦さんの訴えかけであった。ぼくは第3の戦略でできるだけ行ってみて(クラスター対策だけではR<1にするのに不十分ならば,さらなる対人接触を減らす戦略を追加することまで含めてクラスター対策班が視野に入れていることが,西浦さんの訴えかけでわかった),それでも「オーバーシュート」が起こってしまったら,少なくとも一時的には第2の戦略に切り替えるしかないと思っているが,これら3つの戦略のどれを取るのか自体,広く社会に問わねばならない,という立場もありうるのか?

このtweetから始まるマンガ解説は素晴らしい。専門家会議やクラスター対策班が何をやってきたのかが一目でわかる。

NHKの兵庫ニュースで岩田先生がオリンピックは延期が唯一の正しい選択肢とコメントしているが,朝書いたように,1年延期してもできる保証はないので,中止の方が正しい選択肢だと思う。もっとも,コメントの中ではこの夏は無理という話しかしていなかったので,中止以外でという制約付きの質問への答えを切り取られたのかもしれないが。

1年生は4月20日講義開始になったか。4月20日になっても状況が改善している保証はないから,大学を安全な場にするような対処をした上で予定通り4月6日開講すべきと主張したのだが,全学には届かなかったか。ロックダウンしているのでない限り,自宅生は親から感染する可能性があるし,通学しない分,公共交通機関内で感染するリスクは多少下がるかもしれないが,少しでも症状がある人は休むことと,車内では喋らないことを徹底すれば,そのリスクは元々低いし,大学だけ閉じても感染リスクはほとんど変わらないはずだが。医学部保健学科2年生以上(ガイダンスは4/2)と保健学研究科(ガイダンスは4/3)は4月6日開講。


新しい論文いくつか(2020年3月26日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

インペリグループから2つ(第10報と第11報),新しい論文が出ていた。Atchison C et al. "Public Response to UK Government Recommendations on COVID-19: Population Survey, 17-18 March 2020"(2020年3月20日掲載)とAinslie KEC et al. "Evidence of initial success for China exiting COVID-19 social distancing policy after achieving containment"(2020年3月24日掲載)。

前者は,2020年3月16日に英国政府がアナウンスした新しい対策(不可欠でない他人との接触を止める,すべての不要な旅行を止める,可能なら在宅勤務する,パブ,クラブ,劇場などの社交場を避ける,もし家族に発熱や持続する咳を新規発症した人が出たら14日間自宅隔離することを含む)の公衆の反応を見るため,インペリのPERC(患者経験研究センター)によって行われたYouGov調査(80万人以上が登録しているパネルからランダムサンプルしてメールで協力依頼し,2020年3月17-18日に2108人の英国成人対象にオンラインインタビューされた)の結果である。77%が英国でのCOVID-19のアウトブレイクについて心配していて,陽性になっていない人の48%が将来罹ると思っていて,93%は少なくとも1つの個人防御行動をしていて(83%が手洗いをこれまでより頻繁にやっている等),88%の人は専門家に言われたら7日間は自己隔離できるしやる気があるけれども,在宅勤務が可能なのは44%(専門職等は60%だが非熟練労働者等は19%)しかおらず,政府のガイダンスがあれば行動を変えられるという人は71%いたが18-24歳に限ると53%しかおらず,屋外,就労,買い物,学校への外出を避けることなど,社会的に距離を置くことよりも,手洗い,症状のある人との接触を避ける,咳エチケットを,COVID-19の拡大防止に「非常に有効」な方法として認識している人が多かったとのこと。こういう社会調査パネルは日本でもたくさんあるはずだから,専門家会議やクラスター対策班の活動と必ずしもリンクしなくて良いので,どんどんやったら良いと思う(というか,既にやっていても不思議はないのだが,報告は見つからない)。

後者は,中国がCOVID-19から脱出するための,封じ込め達成後の社会的に距離を置く政策が初期段階では成功している証拠,というタイトル。中国は,1月23日に武漢,次いで他の省でも厳密な社会的隔離政策を導入することによって,2月初期には毎日2000-4000人の新規確定患者が報告されていたアウトブレイクのピークを過ぎ,封じ込めに成功した。それは同時に経済に大きな影響を与えた。再流行させずに経済活動を再開できるのかわかっていないので,この研究では,報告された患者からの感染力(RtとしてRのEpiEstimパッケージで推定)を経済活動の代理変数として毎日の都市内移動データ(GPSトラッキングで捕捉されたBaiduの移動統計に基づく,Exante Dataから提供されたもの)と比べている。当初,流行に最も強く影響された5つの省と北京で都市内移動とRtは非常に強く相関していたが,都市内移動が増えるにつれてはっきりしなくなった。香港での同様な分析では,大きなアウトブレイクを避けつつ中程度の局所的な活動を維持できることが示された。将来再流行しないとはいえないが,非常に強力な社会的隔離政策によって封じ込めを達成した後,ある程度その厳しい隔離政策から脱出できたことを意味する。中国がパンデミックの最も進んだステージにいるので,中国での政策は,一度封じ込めを達成できた他国での意思決定にも情報を与える,としている(2月15日頃に概ね封じ込めに成功してから,中国では1ヶ月掛けて徐々に都市内移動が増えていっても,今のところ再流行はしていない,ということで,朗報ではあるが,外国からの感染者の流入があったら,結果は違ってくるかもしれないと思う)。

明日の夜21:00から,TWEEDEESがスタジオアコースティックライブを生配信「おもろいもんは色々あるで」。無料生配信とは太っ腹だが,「この配信はアーティスト支援サービス・bitfanによる企画で、新型コロナウイルスの影響で自粛が続くライブパフォーマンスを今後どういった形で見せていくかという課題へのトライアルとして実施される」とのことなので,将来の有料配信の可能性を探る意味もあるのだろう。凄く良い試みと思う。ぼくは会場でのライブの1/3くらいの課金なら払う。安くする分3倍の視聴者が集まれば,新しいビジネスモデルとして成り立つはず。課金システムが難しいなら,クラウドファンディングで資金を募っても良いだろうし,むしろ政府が金を出しても良いのではないか(どこまでサポートするか線引きが難しいか?)。「プリン賛歌」アコースティックバージョンとかやって欲しいなあ。

日本オセアニア学会の学会誌People and Culture in Oceaniaの最新号が届いた。最初の論文(Furusawa and Siburian)は,リモートセンシングの時系列データに最尤推定でモデルを当てはめて,植生の変化を伝統的な暦が予測しているかを議論するというアクロバティックなもの。福井さんの論文は,クルーズ船観光ビジネスがヴァヌアツのアネイチュム島の社会変化に与えた影響を論じていると思われるが,ご本人がtweetしていたニュースによると,クルーズ船がCOVID-19をもたらしたらしく,ロックダウンされていて,ビジネス面での影響どころではない大きな影響を受けている。古澤さんのロヴィアナ研究の単著について,Brian Allenによる書評も載っているのだが,べた褒めだな。何だか嬉しい。

上海でヒドロキシクロロキン+従来の治療群と従来の治療のみの群に15例ずつランダムに割り付けた研究の結果,2群間に有意差なしという論文が,Forbesで紹介されている

JCMに載っていたKuniya T "Prediction of the Epidemic Peak of Coronavirus Disease in Japan, 2020"(2020年3月13日)は,日本におけるCOVID-19の流行のピーク予測というタイトルで,SEIRモデルだがR0=2.6(95%CI 2.4-2.8)として初夏の時期にピークが来るとしている。感染者検出率は現実的にありうる値の範囲ではほとんどR0の推定に影響しないことも示されている。介入しない場合,10%検出できるとした場合,R0が2.6だと新規感染者報告数のピークは8月10日となり,1%しか検出できない場合,新規感染者報告数のピークは7月12日となるが,感染率β=0.26(R0=2.6に対応)を3月1日から介入実施期間中75%に下げられるとして,検出率1%の場合,1ヶ月介入だとピークは7月23日に遅れ,6ヶ月介入だと9月14日に遅れ,総感染者数は効果的に減少する,という結果が示されている。

相変わらずスーパーやコンビニやドラッグストアの店頭にマスクが出回らないままだ。2ヶ月以上も店頭から消えたままの商品が21世紀の日本で出現するとは想像しなかった。台湾みたいに購入制限をすれば流通が正常化しそうな気もするが,どうなんだろう。この辺りのことはマーケティングや流通の素人にはさっぱりわからない。

東北大の田中重人さんのtweetによると情報出して欲しいという話だが,もしかすると逐次公表するチャンネルがないだけかもしれない,とふと思った。ぼくも随分メディアからの問い合わせにはメールで答えたが,記事になったのは1割もない。自分は個人で契約しているバーチャルサーバに自力でメモを作ってアップロードし続けるという手段があるが,厚労省サイトに載せる情報の決定権が専門家会議やクラスター対策班になかったら,彼らがいろいろな形で情報を出しても,出口で取捨選択されてしまう可能性はある。リスコミがわかる広報担当を入れて専用ページを作ってそこに集約するとかしたら良いのだろうが,政府がそういう人材に声を掛けないのかもしれない。ネットやテレビでアクセス可能な情報や先日の記者会見を見ていても,敢えて隠すことはしていないと思った(明確に根拠を示すことはできないが)。

flurryさんがクラスター対策がまだ論文として公表されていないのに信用するのかという含みのtweetをされたので以下のように返事した。「プレプリントサーバの3月3日付けの論文を見つけてから,受理された論文を毎日のように探していますが,まだ出ていないようです。クラスター対策をした効果についてのシミュレーション結果を含む論文も,まだ見つけられずにいます。査読の壁が高いのかと思っています。」「(承前)ただ,3月19日の記事の第1段落に書いたように,仮にスーパースプレッディングイベントとは別のメカニズムによる「市中感染者からの見えない感染がつながって同時多発的な感染者増加が起こること」があっても,クラスター対策(追跡と発生予防)をすればその分Rは落ちるでしょう」「(承前)押谷先生は孤発例は見えないクラスターと想定されていましたが,そうでなくて,クラスター感染(たぶんマイクロ飛沫の停留が鍵?)とは別に接触感染・飛沫感染で同時多発的にRが0.5~2くらいの感染が増えるのが孤発例の増加だとしても(論文ありませんが)クラスター対策の効果は変わりません」「プレプリントサーバに載っているデータと,2月15日発表の "Dispersion vs. Control" でR0のoverdispersionは十分示されているので,クラスター感染の存在を疑う理由はありません。」

Sakino Takahashiさんのtweetに対して,昨日書いた3つのシナリオをリンクして,「ぼくは先進国の都市住民にとって,1~3ヶ月のロックダウンを何度も繰り返すことは耐えがたいと思います。いまのうちに,ライフラインを確保しながらの長期間のロックダウンがどうやったら可能なのか,精緻なシミュレーションをしておく必要があると思います。」「(承前)社会システム工学とか環境科学方面でLCAをやっていた人たちにはノウハウがあるのではないでしょうか。」とtweetしたが,考えなくてはいけない間接的な影響は山のようにあるだろうから,多方面の専門家の叡智を集めなくてはできないと思う。誰か始めていないだろうか? それこそGitHubとかでオープンなプロジェクトとして進めると効率良さそうな気がするが。


第二波対策(2020年3月27日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

この数日の東京のリンクが追えない感染者の急増(大阪と兵庫もか)は,憲法変えるのやだネット長野さんのこのtweetで知った横浜市立大学生命ナノシステム科学研究科佐藤彰洋特任教授による東京都の現状分析と,先日の専門家会議発表から考えると,欧米から高い感染力をもったウイルス(接触当たりの感染確率に比例する係数(この定式化ではαと表現されている)が高いことが意味するのは,例えば飛沫や何かに付着したときの生存時間が長いとか,感染するウイルス数が少なくても定着して増殖しやすいとか,単位時間当たりに排出するウイルス数が多いといった可能性だが,本当にそうなのかはわからない)に感染した人が大量に流入したことによる(SIRモデル上,未検出のIを増やすという操作を入れたら,αを10倍までしなくても当てはまる気がする。やってくれないだろうか?),と考える蓋然性がある。ここに書かれているモデルではR0の過分散は考えておらず(つまりクラスター感染は考えていない),コンパートメントも細かく分けていないので,ラフな推定だとは思うし,スペインとドイツでαが3前後と,1を超えるのは変な気がするが,仮にこの分析が正しいとしたら,3月10日頃までのクラスター対策は日本の感染状況を何とか制御してきたが(これまで書いてきたいろいろな考察から,それはたぶん正しいと思っている),それ以降はクラスター発生以外の(たぶんインフルエンザと同様にランダムにリンクされた飛沫感染や接触感染による)感染者増加が主になってしまったので,クラスター対策では新規感染者数を抑えられなくなったと考えられる。

こうなってくると,「オーバーシュート」発生を防ぐには,もうロックダウンしかないのかと思ってしまうが,まだやれることはある。欧米からの帰国者からの直接接触による感染が増えているならば,積極的疫学調査で濃厚接触者を検査してクラスター検出をしていたら,そこからの感染者を隔離するのに間に合わないので,おそらく今では有病割合も上がっているから,咳をしている人に近づいたことがあるとか,手を洗わずに口の近くにもっていったことがあるとか,会食の場に咳をしている人がいたという経験がある人全員……は無理だろうから,風邪様症状が出たら(個人的にはSpO2が95%を切ったら,とした方が良いと思うが)検査としても,ある程度の割合で陽性の人を捕捉できると思われる。軽症なら自己隔離しかないが,感染拡大防止には役立つ。もちろん,医師が鑑別診断の必要を認めた人の検査が優先順位トップで,次がクラスターからの積極的疫学調査で見つかる感染者に接触した人全員をクラスターの連鎖を抑えるために検査,というのも従来通りやった上でやらねばならないから,おそらく守秘義務とか個人情報保護とかに関する規定を緩めて,責任はすべて政府がとることにして(つまり検査者は免責する),大学や民間のBSL2+の設備がありリアルタイムRT-PCRができる施設の協力を得るか,あるいは,イムノクロマトかELISAで抗原検出(抗体ではなく)できるキットを開発して血液検査することが必要になるだろう。そうすれば,クラスターによらない感染を下げることができるから,新規感染者の増加を押しとどめられるかもしれない。それをやっている間に準備を整える必要がある(昨日書いたような様々な可能性を検討した上で,生きるための金や食糧は行政が責任をもって提供するから,ライフライン維持のための人員を除いて,外出と対面での会話を全面的に禁止します,と言えるようにする)。社会が混乱して亡くなる人がCOVID-19による死者を上回ってしまっては本末転倒であろう。ロックダウンするとしても,準備ができた後にするべきと思う。

ただ,新型コロナウイルス対策の「社会距離拡大戦略」が他の感染症も抑えていることが確認されるというGigazineの記事(2020年3月26日)に書かれている,social distancing導入後のインフルエンザ様症状を呈する患者数の減少とか,IDWR速報データのページからリンクされている,定点報告疾患の定点当たり報告数の過去10年間との比較のインフルエンザ,流行性耳下腺炎,ロタウイルスによる感染性胃腸炎が例年よりかなり少ないことを見ると,1月からの頻回な手洗いや濃厚接触を避ける行動によって,接触感染・飛沫感染する感染症のRが全般に低くなっていた可能性もある。例えば,東京から地方に帰省などして発症した人からの感染のRが1を超えていなければ(要確認。データないかなあ),欧米から帰国した感染者がもっていたウイルスのRが高くなったのではなく,見えないクラスターが多数存在するのでもなく,たんに帰国した感染者数が多くて,そこからのクラスター以外の感染(いわゆる濃厚接触による,飛沫感染や接触感染)が同時多発的に検出されるために,新規感染者数が急増しているだけかもしれない。もしそうならば,これまでやってきたことを着実に続けるのでも,「オーバーシュート」が防げる可能性は残っている。(注:この段,かなり願望混じりなので,あまり信用しないでください)

岸田直樹先生がこのtweetで紹介している動画を見ると,social distancingの効果が視覚的に良くわかる。ななきさとえさんがtweetしていたWashington Postの記事も良いビジュアライズだと思う。

遠隔も含めた講義の仕方のガイドラインを作る必要があるなあ。ざっと思いつくところでは,まず,ぼくのように独自サイトで配布しても良いのだが,BEEFという仕組みもあるし,全教員が講義資料はネット配布できるはずだ。講義室は前後2カ所は窓を開けて講義するとか,D201のような窓を開けられない部屋では前後のドアを開放する必要もあるだろう。唾が飛ぶことは避けねばならないので,教室内での私語は厳禁で,教員もマスクをした上でマイクを使って喋るべきだろう。講義室に学内LANは来ているので,Zoomなどで配信もし,遠隔で受講することを推奨することも必要だろう。資料をネット配布してあれば,配信は音声だけでもいけるのではないだろうか。音声だけなら,そんなにデータ転送量を食わないのではないか(月1000円くらいの低速データ転送専用定額SIMでもradikoプレミアムを聞くには支障ないし)。備品としてはアルコール消毒剤を適宜配置すること,水道がある場所(講義室も含めて)には石鹸とペーパータオルを置くことも必要だろう(入子先生のアイディア)。他は何があるだろう?

英国首相が自らの感染をtweetしている。

専門家会議からの情報発信のため,リスコミの専門家集団が協力することになったと,西浦さんがtweetしていた。やはりチャンネルがなかったのだな。

TWEEDEESのライブは素晴らしかった。こういう活動を有料配信化するのが可能性の一つか。しかし,大友良英さんのこのtweetは悲痛。ドイツと日本の閣僚の文化へのスタンスの違いが悲しい。長期的にはCOVID-19の感染を増強しないような営業形態・活動形態・建物の構造といったことを模索する必要があると思うが,少なくとも当座の具体的援助を政府がしないと生き延びられないのでは。

岸田直樹先生のN95マスクの再利用には蒸気消毒をというtweet


プレゼン資料作るか(2020年3月28-29日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

Lancet Infectious DiseasesのKoo JR et al. "Interventions to mitigate early spread of SARS-CoV-2 in Singapore: a modelling study"(2020年3月23日掲載)は,シンガポールでのSARS-CoV-2の早期の広がりを緩和するための介入についてのモデル研究論文。後で読む。

田島貴男配信ライブ,4月5日夜,1000円で3日間何度でも視聴できるという試み。買ってみよう。COVID-19影響下での持続可能な活動の仕方について,昨日のTWEEDEESもそうだが,多くのアーティストが試行錯誤する中で,いち早く有料配信に踏み出すのは勇気が要ると思う。元々ファンだし応援したい。

永崎さんのtweetで知ったが,オンライン学会向けZoomマニュアルの公開というブログ記事。簡易版,発表者向け,聴講者向けの3種類がダウンロードできる。オンライン講義にも参考になりそう。

route of infection別の二次感染者数分布の違いと,感染者移動数の分布を考えたシミュレーション,誰かやってくれないかなあ。

学生向けにプレゼン資料作るか。

忽那先生による都内の感染症指定医療機関で何が起こっているのか。臨床現場の苦境がわかる。

遠隔講義はZoomでやろうという動きが主流だが,ネックは,受講する学生側もデータ転送量が多いため,通信プランによっては早々に上限に達してしまう可能性があることや,無制限のプランは料金が高いことに加えて,全講義を全大学が遠隔化したらZoomのシステム負荷が耐えられるのかという点にあった。学習院の田崎さんの「ギガに優しく」受講できる「ラジオ講座」風遠隔講義案は,この問題を解決するための一案。確かにこれもありだな。ただ,前もって音声ファイルを作るのも大変だから,一度遠隔講義をしながら録音もしておいて,後でも聴けるようにしてあげると良いか。このtweetで提案されている方法も良いなあ。とくにアクティブ・ラーニング方式の科目には,この方が良いかも。Medical Anthropologyのdebateはこれをmodifyしてやってみるかな。

"When Coronavirus Emptied the Streets, Music Filled It"。

SciAmの記事から,2つのクロロキン関係の論文がリンクされていた。Gautret P et al. "Hydroxychloroquine and azithromycin as a treatment of COVID-19: results of an open-label non-randomized clinical trial"(2020年3月20日)とDevaux CA et al. "New insights on the antiviral effects of chloroquine against coronavirus: what to expect for COVID-19?"(2020年3月12日)。後者は既読だったが,前者は初見。有効という結論だがRCTでないので,まだわからない。

Chen T et al. "Clinical characteristics of 113 deceased patients with coronavirus disease 2019: retrospective study"(2020年3月17日受理;2020年3月26日掲載)は,BMJに載った原著論文で,武漢の病院の死亡例113人と回復例161人のカルテを調べて行われた後向き症例対照研究だが,カイ二乗検定とフィッシャーの直接確率という2変量統計までしかやっていないのが勿体ない。ロジスティック回帰して欲しい。せめて層別解析。


SARS-CoV-2の起源について(2020年3月30日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

先日のNHKスペシャル,NHK Worldで放送される国際版は4月9日までweb視聴可能と教えていただいた。公共放送なのだから,COVID-19関連のNスペとクロ現プラスは期限を区切らず公開してくれたら良いのになあ。

メディア(とくに3月12日だったかの日経新聞)とかSNSで疫学批判言説を書いている人には,まず日本語テキストでいいから,せめて『ロスマンの疫学』とか『感染症疫学ハンドブック』くらい読んでからにして欲しいと言いたい(本当は『感染症の数理モデル』も読んで欲しいが)。

本来の意味とは違うのだが,感染を広げないための標語として「沈黙は金」はどうだろうか。これは字義通りなるべく喋らないということであって,文字による表現をするなと言っているわけではないので,深読みしないで欲しいが。

Fung S-Y et al. "A tug-of-war between severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 and host antiviral defence: lessons from other pathogenic viruses"(2020年3月14日掲載)というレビュー論文。後で読む。

2005年のScienceに載っていたLi W et al. "Bats Are Natural Reservoirs of SARS-Like Coronaviruses"や,2015年のTrends in Microbiologyに載っていたLu G et al. "Bat-to-human: spike features determining ‘host jump’ of coronaviruses SARS-CoV, MERS-CoV, and beyond"によると,SARS-CoVも自然宿主はコウモリだったと思われる。Nature MedicineのAndersen KG et al. "The proximal origin of SARS-CoV-2"(2020年3月17日掲載)というCorrespondenceは,ヒトが操作して作られたというデマを強く否定しているが,効率よくヒト=ヒト感染を起こすようになった変異が,動物の中を感染しているうちに起こったのか,それともヒトに感染してから起こったのかを検討している(結論は出ていないが)。確かに,もし前者なら,いったんヒト社会から根絶しても,MERSのように何度でも(MERSはR0が小さいからパンデミックにはならないが)動物からヒトに感染してエピデミックを起こすことになる。現状,むしろ世界の多くの国でエンデミックな病気になる可能性の方が高いが,それだと2月15日にProf. Lipsitchが予測していたように世界人口の40-70%が感染することになるので,考えたくない数(最悪5000万人レベル)の死者が出てしまう。

Scholarly Community Encyclopediaへの寄稿のお誘いメールが来た。何本も査読したのでEpidemiologyのreviewを書けということと思われる。DOIは付くし完全無料だし良いプラットフォームだと思うが,書く暇あるかな。ていうか,その前に査読を終わらせないと。

NHKの特設サイト「新型コロナウイルス」>私たちはどう行動する>生活の中で大切なことが更新されていて,マイクロ飛沫の動画や,3つの密を避けること,家族が感染したときの対処についての動画が載っていた。


まとめpdf作成(2020年3月31日)[編集]

(当該鐵人三國誌)

COVID-19のまとめ資料(私見,と書いたスライドは学生向けからは除くべきかも)を作った。最初アップロードしたものは糞口感染の記述が不適切だったので修正し10:45にアップロードし直した。

テレビでドイツにも英国GP同様のかかりつけ医からのreferralシステムがあるという話をしているが,一次医療圏が医療法が定める医療計画に入っていないのが日本でかかりつけ医がうまく機能していない原因だということは,ずっと前から公衆衛生学では共有されている問題意識だった。自由に開業できないと困るという医師や開業コンサルタント業界のロビー活動のせいが大きいと思うが,総合診療医の養成も足りていないので(専門医志向が強いので),法制化しても理想的な配置は難しい気がする。いずれにせよ今現在の危機解決には間に合わない。

インペリグループの論文発表が早くて凄い。3月26日に10報と11報に触れたが,既に12報と13報が出ていた。Walker PGT et al. "Report 12: The Global Impact of COVID-19 and Strategies for Mitigation and Suppression"(2020年3月26日掲載)と,Flaxman S et al. "Report 13: ­­Estimating the number of infections and the impact of non-pharmaceutical interventions on COVID-19 in 11 European countries"(2020年3月30日掲載)である。後で読む。

昨夜小池都知事の会見があり,クラスター対策班の西浦さんもコメントしたという話。YouTubeにテレ東のノーカット動画が公開されている。質疑で,弧発例の多くが夜の町の特定の業種における伝播であることがわかったとして(見えないクラスターが散在しているのではなくてラッキーなことだった),グラフも示したようだ(グラフは別角度から撮影されたニコ動では配信されたらしい)。爆発的な増加があるかどうかを把握するのに(一般母集団対象の?)抗体検査は向いておらず,リアルタイムRT-PCRに加えて電話相談とかSNSを総合的に見て判断しているという説明,その通りだと思うが,抗体検査は他の検査とリソースが被らないので,医療や検査の現場に余力があるなら,やれば流行状況について補完的なデータにはなると思う。それが必要なのは,今よりも,むしろ一定のレベル以下に新規患者数が収束した後だと思う(感受性のまま残っている人の割合の推定は,再流行リスクの評価に必須なので)。

インペリグループ第12報は,緩和戦略と抑え込み戦略の世界規模の影響というタイトルの通り,まったく介入なしの場合に比べて,死亡率が10万人週当たり0.1, 0.2, 0.4, 0.8, 1.6, 3.2を超えたところで抑え込み戦略(全年齢で社会的接触を75%減らす)を導入した場合と,緩和戦略(70歳以上の社会的接触を60%減らすか,全年齢で社会的接触を40%減らす)を導入した場合で,250日間のアウトカムがどう変わるかを見ている。アウトカムとしては累積感染者数,累積死亡数を見ているが,国によって状況が異なるため,人口,GDP,所得水準別ヘルスケア利用可能性を考え,年齢構造のある確率的SEIRで上記シナリオごとの疾病負荷を計算し,病床数やICU数も考慮した影響予測をしている。結果は,世界7地域別に推定されているが,合計では,まったく介入しないと70億人が感染し4000万人が死亡するところ,0.2/10万人週という早期に抑え込み戦略を導入すると4.7億人が感染し186万人が死亡,1.6/10万人週になってから導入すると24億人が感染し1000万人が死亡となった。データとしてはwppとrDHSパッケージを用い,接触パタンについては多くの先行研究やsocialmixRパッケージを利用したと書かれている。力業な研究だが,結果のインパクトは大きい。

インペリグループ第13報は,ヨーロッパ11ヶ国で,感染者数とCOVID-19への薬剤以外の介入の影響を推定するというタイトルで,実際に各国でいくつかの介入が導入された時点と感染者数データを用い,階層ベイジアンモデルを使って介入効果を推論しているもの。Rコード(RStudioをインストールしてあれば,zipを展開してプロジェクトファイルをクリックすることでFigure 5を再現できると書かれている)が提供されている。第9報に比べると学校閉鎖の効果がかなり大きく出ているのだが,何かのsurrogate measureになっているような気がするなあ。詳細はコードを見てみないとわからないなあ。

マラリアとか熱帯病対策で大きな役割を果たしてきたWellcome Trustのニュースに載っていたが,クロロキンとヒドロキシクロロキンによるCOVID-19治療について世界規模の臨床試験を4月から始めるそうだ。

LINEで厚労省からのCOVID-19についてのアンケートが来たので回答した。